
2017年1月号以来、2度目の本誌登場となる柳楽優弥さん。当時、さまざまな作品へのオファーに備え、自主的に護身術や茶道、乗馬を習っていると語っていた。そこに最近、新たに加わったものがある。1級船舶免許だ。
「食事に出かける、飲みに行く、それらを控える生活になって以来、アウトドアで家族と過ごすことが増えました。それでハマったのが釣り。アマダイやシイラなどを狙って、多いときには週1ペースで相模湾に出ています。釣れた魚を捌くために、出刃包丁も新調しました。ゾウ、馬、バイク、車には乗れるので、海の乗り物を加えるのも悪くないと、夫婦で船舶免許を受験することになったんです。今後、もし船乗りの役のオファーがきても対応できます」
ただの趣味で終わらせず、役者へのフィードバックを見据えるのが柳楽さんらしい。ちなみにゾウとは、デビュー作に続いて出演した映画「星になった少年」のことを指す。同作でゾウ使い役を演じた柳楽さんは、タイ語を習得し、見事にゾウを乗りこなした。そんな経歴をもつだけに、船を華麗に操る役がこないとは言い切れないのだ。とはいえ、想像以上に1級船舶免許のハードルは高く、一度目はあえなく不合格。再挑戦で取得できたそうだ。
「ほかにも、健康への意識が高まって、食養生という資格も取りました。あとはピアノですね。もともとギターは独学で弾いていたのですが、“戦メリ”にチャレンジしたくて。今度、『浅草キッド』という作品で、北野武さんを演じるのですが、そのことが影響しているのかもしれません。タップも半年くらい習っていて、すでに足が悲鳴を上げています」
昨年末に開設した自身のファンクラブでも、今年中に「戦場のメリークリスマス」の上級編を弾けるようにすると宣言したという。近年、YouTubeに進出する芸能人は多い。そんななかファンクラブという形態にしたのはどうしてだろう?
「SNSの良さはもちろんあるのですが、僕の場合は不特定多数の人に発信するよりも自分に興味をもってくれた方たちに対して、情報発信したい。少し芸能界から距離を置いた時期があったときに、ファンの方々や、サポートしてくれる人たちに“自分はこういう人間です”と伝えないまま、この世界から去っていくのはあまりにも寂しすぎると感じたんです。ファンクラブの開設はマネージャーさんからの提案だったのですが、そのときの思いがよぎりました」
今後はファンクラブを通じて、日々、感じていることや、新しいことに挑戦する姿を発信していきたいという。話題作への出演も続き、打ち込む趣味も増えている。傍目から見れば、充実した人生のようだが、意外にも演じることに迷いが生じてきたと吐露する。
「去年1年間は、予定していた作品が延期になるなどして、アウトプットする場所がなかったこともあり、演技とはなんだ? と、急に考えるようになったりもしました。夢中で走っていたら、崖に気づかず、そのまま海に落ちてもがいているような感覚です」
と、現在の心境を表現する柳楽さん。そして、31歳の自分へのプレゼントに、矢沢永吉氏の著書「成りあがり」を選んだという。新しい刺激を無意識に求めているのかもしれない。
苦悩する柳楽さんの姿は偶然にも、5月28日(金)から公開される映画「HOKUSAI」で演じる葛飾北斎と重なる。劇中、北斎は自分らしい絵とは何なのか? 悩み、模索する日々を送る。そして自暴自棄になり、飛び込んだ海のなかで、かの有名な波の技法を閃くのだった。
「誰もが知る圧倒的なスター絵師なので、正直、演じるのが怖かったんです。しかも特に、僕が演じる青年期は歴史資料も少なく、若き日の葛飾北斎の人物像は謎に包まれています。ミステリアスさが魅力のひとつでもあるのですが、監督と話し合いを重ねて、慎重に人物像を決めていきました」
また、本作の撮影を行っていたのは2019年6月にかけて。一度、公開が延期され、ようやく日の目を見ることになったのだ。
「撮影していたときは、こんな状況になるなんて、予想もしていませんでした。でも、こんな閉塞感の漂う時代に映画が公開されるなんて、ある意味、北斎らしいなとも思います。修羅場をくぐり抜けてきた人物ですから。僕も情熱に満ちたパッション系の北斎を演じたので、この作品がみなさんの背中を押すような作品になったら、嬉しいですね」
情熱に満ちたパッション系の葛飾北斎をとはどんな人物なのか? そして、柳楽さんが今後、どんな姿を見せてくれるのか? 興味は尽きない。