機能美と意匠を併せもち、モノ好きが唸る奥深い世界。
それが料理道具。今回、取り上げるのは「ご飯鍋」です。
秋冬の味覚とともに新米を食べる。最高の贅沢です。
そこで日本で唯一、料理道具コンサルタントの肩書きをもつ、
荒井康成氏にオススメの逸品を紹介していただきました。
Styling&movie&photo:YASUNARI ARAI/Edit&Text:SHINSUKE UMENAKA(verb)
2019.12.16
極上のごはんを味わうならご飯鍋
お米が立つ! 冷めても美味しい
銀シャリがすぐできる昔ながらの鉄鍋(羽釜)
何を使ってお米を炊くのか? 真っ先に候補にあがる逸品が、鉄鍋(羽釜)です。最近のIH炊飯器に使われている深くて底の広い釜は、実は鉄鍋をモデルにしてつくられています。
硬く乾燥したお米は、水分と熱を加えることで、デンプン成分が変化して、ふっくらとやわらかい、甘みのあるごはんへと生まれ変わります。このとき、お米全体にムラなく熱を加えることが、美味しく炊くコツなのですが、鉄鍋の場合、釜全体に均一に熱が伝わるため、中で対流が起きます。すると、お米が踊るように舞い、全体に水と熱が加わることで、甘みが引き出されます。また、鉄鍋は短時間で沸騰するため、お米がすぐに蒸された状態になるため、お米の旨味成分が閉じ込められるといいます。また、お米から出たデンプンの蒸気が木のフタにピタッと張り付くことで“圧力炊き”の原理も活かされています。だから、鉄鍋で炊くお米はひと味違うというわけです。
鉄フライパンと同様にメンテナンスが少し面倒ですが、短時間で炊くことができ、時短にもなるので、マイナス面を差し引いても使ってみる価値大です。
荒井さんセレクト「鉄鍋」
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釜定
「羽釜・南部鉄器」岩手県を代表する伝統工芸品として100年以上の歴史がある南部鉄器。老舗鋳物屋「釜定」の羽釜は、この南部鉄器をモダンにアレンジしたデザインが特徴的。職人がひとつ一つ手づくりしているため常に品薄状態という。羽釜で炊いたご飯は熱が均一に伝わるため、ふっくらとしたご飯が炊き上がる。IHコンロにも対応しているため実用性も高い。
参考価格22,000円
精密加工の蓋で圧力を逃さない。
もっちり炊けるホーロー鍋
焦げ付きやすいという鉄鍋の弱点を克服した優れものが、鋳物ホーロー鍋です。熱が均一に伝わる鉄にホーロー加工を施すことで、焦げ付きを防いでくれます。しかも、バーミキュラの鋳物ホーロー鍋なら、蓋が重く、しかも職人の手作業でつくっているため本体と蓋が隙間なくピッタリと閉まります。だから、内部の水蒸気が逃げず、食材から出てくる水分だけで煮込む無水調理ができるほど。
お米にしっかりと熱が伝わり、もっちりとした食感のごはんが炊き上がります。
荒井さんセレクト「ホーロー鍋」
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バーミキュラ
「ホーロー・鋳物ホーロー鍋(14cm)」「世界一、素材本来の味を引き出す鍋」をコンセプトに開発された鋳物ホーロー鍋。蓋と本体の接合部分を日本の職人が手作業で0.01mmの精度で削りだし、高い密閉性を実現した。食材の旨味や水分が逃げず、素材本来の味を楽しむことができる。蓋を含み全体が鋳物であることと、ホーロー加工による遠赤外線効果によって、食材の組織を壊すことなく調理が可能。
参考価格27,000円
土鍋でも簡単にごはんが炊ける!
香り高く、炊き込みごはんに最適
続いては土鍋です。鍋料理には利用しているけれど、これでご飯を炊いたことはないという人も多いのではないでしょうか? 慣れない調理に不安を感じる人がいるかもしれませんが、土鍋での炊飯は思ったよりも簡単です。
土鍋はじっくり熱が伝わり、冷めにくい性質を持っているので、沸騰したら弱火にして15分程度待つだけ、もしくは10分程度弱火にかけ、そのあと火を止めて20分ほど蒸らしておけば、完成します。
なかでも吹きこぼれにくいよう、蓋が二重になっているタイプの炊飯土鍋を使えば、失敗しません。他の鍋と違い、鍋底が丸みを帯びているので、お米が踊りやすく、均一に火が入ります。ふっくらしつつ、もっちりとした弾力のあるお米が炊き上がります。また、お米がほのかな香りを帯びるので、鯛飯や栗ごはんなど、炊き込みごはんとの相性も抜群です。
荒井さんセレクト「土鍋」
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長谷園
「土鍋・かまどさん(3合炊き)」良質な陶土の産地である伊賀の粗土でつくられた「かまどさん」。遠赤外線効果の高い釉薬を使用。上ふたと内ふたの2重構造が圧力釜の役目を果たし、吹きこぼれを防止する。土鍋本体を肉厚に仕上げることでしっかりと熱を蓄える。かまど炊きのようなふっくらとしたご飯を、短時間で火加減入らずで炊くことができます。
参考価格13,200円
ボソボソお米がもっちりに!
玄米や五穀米なら圧力鍋
健康を気にして、五穀米や玄米を取り入れている人もいるかもしれません。玄米にはとくに食物繊維が豊富に含まれています。そのため炊飯器で炊くと、なんだかちょっとボソボソして食べづらい……と感じたことはないでしょうか?
そんなときは圧力鍋で炊くのがオススメです。高い圧力によって、お米の芯まで熱が届くので、もちもちした食感の玄米が炊き上がります。
圧力鍋を選ぶときには、安全性の高さと、洗いやすさを重視するのが良いでしょう。通常なら時間がかかる煮込みを時短でつくる調理器具のため、圧力を下げる際には、ちょっと怖いくらいの勢いで水蒸気が出ます。
その点、約160年の歴史を誇るヴェーエムエフの圧力鍋はシンプルな構造で使いやすく、信頼性も高いため人気を博しています。取手が取り外せて、洗いやすいのも高評価です。
荒井さんセレクト「圧力鍋」
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ヴェーエムエフ
「圧力鍋・パーフェクトプラス(2.5L)」創業160年の歴史を誇るドイツのキッチン&テーブルウエアブランド「ヴェーエムエフ」。調理に時間がかかる玄米や、煮込み料理などを短時間で仕上げることができる。シンプルで無駄がないデザイン、優れた機能性と高い安全性が魅力的。取手を外すことができ、使用後のお手入れが簡単なのもポイントが高い。
参考価格26,500円
お米を美味しく炊くための
研ぎ方のコツ
オススメのご飯鍋を紹介してきましたが、さらに美味しく炊くために欠かせない、研ぎ方をおさらいしておきましょう。
お米を計量したら、そこに水を入れて研いでいきますが、勢いよく注がずにお米が傷つかないよう、ゆっくりと糸を引くように注ぐのが、最初のコツです。また一杯目のお水にはミネラルウォーターや浄水器のものを使いましょう。乾燥しているお米が水を一番吸収するのは、このタイミング。炊き上がりの風味に影響するので、カルキ臭さの残る水道水では台無しです。
水を注いだら、二、三度、やさしく大きく全体的に混ぜ、水をすぐに捨ててしまいます。表面についたゴミやホコリをサッと洗い流す程度で十分です。新しい水を注いだら、軽く研いでいきますが、3〜5回程度、ザッと擦ったら、再び水を捨ててしまいます。これを3回ほど繰り返せば、終わりです。その後、水に30分ほど浸けてから、炊きはじめます(玄米なら2時間程度は、水に浸けておきたいところです)。
ゴシゴシと力を込めて、何度も水を替えながらお米を研いだのは、昔の話。精米の技術が発達したため、研ぐのはほんの数回で構いません。
- 水はミネラルウオーターや浄水器のものを使う
- 水は二、三度、やさしく大きく
全体的に混ぜてすぐに捨てる - 研ぎすぎに注意
- 水に30分程度つけてから炊く(玄米は2時間)
ふっくら炊きあがった銀シャリはもちろん、秋冬の味覚をふんだんに使った炊き込みごはん、そして、お鍋のシメなど、お米が美味しく炊けると、それだけで食卓が豊かになります。料理や使うお米によって鉄鍋や土鍋、ホーロー鍋などを使い分けると、料理するのがもっと楽しくなりますよ。
荒井 康成 YASUNARI ARAI
料理道具コンサルタント/Kitchenware Stylist
洋菓子店店長、和陶器店主を経て、フランス陶器エミール・アンリ社の日本法人設立に携わる。以後、日本初の「料理道具コンサルタント」として独立し、「料理通信」「ELLE gourmet」など、各食情報誌でのコラム執筆やスタイリング撮影、Panasonic「ふだんプレミアム」や魔法びんのパイオニア「サーモス」のInstagramディレクション、「キユーピーサラダクラブ」や「カルビーフルグラ」など食品会社の販促物スタイリング撮影、食の学校「レコール・バンタン」では講師として、多岐に渡り活動中。著書に「ずっと使いたい世界の料理道具」(産業編集センター刊行)。http://www.araitools.com