サラリーマンアングラー釣り五郎がゆく!その1

“釣り”。水面に糸を垂らし、静かに当たりを待つ。「そんなの年寄りの道楽だろ!」と思わないでほしい。生きた魚を狙って釣り上げる、その行為は人間と魚との知恵比べなのだ。釣りが古くから商人や経営者に愛されてきた理由もそこにある。釣りは、まさしくビジネスそのもの。明日から仕事で使えるTipsの詰まった釣り連載。ここにスタート。

Illustration : MIKI TANAKA
Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)

2019.11.29

登場人物
  • 魚釣五郎
    魚釣五郎(30才)
    うおつり ごろう。あだ名は“釣り五郎”。職場は海川商事。好きな寿司ネタはエンガワ
  • 鰒田一平
    鰒田一平(52才)
    ふぐた いっぺい。魚釣五郎の上司。休日は釣り三昧。好きな寿司ネタはヒカリモノ
  • 舟山杜氏
    舟山杜氏(68才)
    ふなやま とうじ。五郎が勝手に“師匠”と命名。神出鬼没のアングラー。好きな寿司ネタは赤貝

まだだ、まだ巻くな。相手がその気になるまで!

ヒラメ編<前編>

サラリーマンアングラー釣り五郎がゆく!

私の名前は「魚釣五郎」。海山商事で働く30歳。会社では営業を担当しているが、毎月の契約本数はパッとしない。下から数えたほうが早いだろう。おっと、課長の呼ぶ甲高い声が聞こえた。また小言か……。

魚釣五郎
鰒田
鰒田「こないだ契約が取れるって言ってたA社から断りの連絡があったぞ!どういうことだよ」
魚釣
魚釣「えっ、そんなはずは……。あとは上の承認を待つだけだって」
鰒田
鰒田「まだハンコもらってなかったのかよ。契約ごとはヒラメみたいに焦らず慎重に進めろって、あれほど口を酸っぱく……」

「ヒ、ヒラメ?」。そういえば、釣りが趣味の鰒田課長は、興奮するとすぐに“釣り”や“魚”で、たとえ話をしてくると社内の誰かがいってたっけ。どうせ俺は昔、デッカいヒラメを釣ったことがあるとか、そんな自慢話の類だろう。ここはひとつ座布団サイズのヒラメでも釣って、課長の鼻を明かしてやるか。そして週末、千葉県の片貝港に来ていた。

秋が初心者にも釣りやすいヒラメのベストシーズン

ヒラメ船二三丸

船釣りなんて、子どもの頃に一度、親父に連れられて行った記憶があるくらいだ。勝手がわからず、二三丸という船宿を見つけ、電話をすると、竿もリールも全部、借りられるとのこと。その言葉を信じて、手ぶらで港に来たのだが……。

それにしても、ヒラメ船の出港は早い。まだ午前5時。辺りは真っ暗だ。しかし、釣り人が続々と集まって来る。慌てて受付を済ませ、釣り船に乗り込んだ。船はすぐに釣り人でいっぱいになり、夜明け前に港を発った。片貝港のある外房では、秋になると連日、ヒラメ船が出港するという。なかでも、今回乗船した二三丸ではライトタックルという軽い重りを使う初心者にも優しい釣り方でヒラメを狙うとか。

全部、隣に座った、おじさんから聞いた話なんだけど。いかにもベテランといった風貌の釣り人で、私は心のなかで「師匠」と呼ぶことにした。

魚釣五郎と師匠
今回のターゲット【ヒラメ】

ヒラメ

ほぼ1年中狙える魚だが、メインは夏~冬。イワシなど生き餌で釣ることが多い高級魚。市場価格は1.5kgで約1万円。
仕掛け
ライトタックルは短く軽い竿や小さめなリール、簡単な仕掛けを使って魚を狙う釣り方で初心者向け。でもしっかり大物も狙えるらしい。
仕掛け
師匠に教わりながら、生きたイワシを針に付ける。イワシが弱るとヒラメの食いつきが悪くなってしまうとか。

高級魚のヒラメを釣って課長をギャフンと言わせるはずが

船を走らせているうちに、ようやく太陽が地平線から顔を出す。船のスピードが緩み、漁場に到着したようだ。船長の「はじめてください」の号令を合図に、一斉に仕掛けを海に垂らす釣り人たち。私はというと、慣れない餌付けに大苦戦。生きているイワシを掴むだけで、ひと苦労だ。もたもたしている間に“師匠”の竿に、早くも当たりがあったようだ。

魚釣五郎

その様子を見ていたのか、網を持った船長が駆け寄ってきた。ゆっくりと師匠がリールを巻き続けると、船長が阿吽の呼吸でサッと網を海面に差し出す。ヒラメだ。しかし、師匠と船長に笑顔はない。聞けば、サイズが小さいのだという。

「よし、私だって!」。仕事では最近、良いところがないけれど、釣りなら楽勝でしょう!
隣で釣れて、私に釣れないわけがない。しばらくすると、ズズズと何かに竿を引っ張られるような感触が伝わってきた。「よっしゃ!」。勢いよくリールを巻くが、上がってくるのは自分が付けたイワシのみ。何度やってもヒラメの姿がない。これはどういうことだ?

遊びか、それとも本気なのか?相手の出方をしっかり見極めろ

師匠
師匠「そんなに焦って巻いたらダメだよ。ヒラメが本気で食うまで“慎重に”待たなきゃ」
魚釣
魚釣「え、だって明らかに引っ張られてますよ!“本気”ってどういうことですか?」

5mと離れていない場所で釣っている師匠と私。仕掛けや餌も同じだし、師匠に教わった餌の付け方もマスターしているのに、どうして私だけ釣れないんだ? 答えがわからず、焦りだけが募っていく。そして、師匠が発した“本気”という意味深な言葉。

魚釣五郎と師匠

その後も時折、グンという当たりようなものを感じて、サッと竿を上げるが、餌が残ったままだ。まるで釣れる気配がない。かといって、当たりに“遊び”と“本気”があるようには思えないのだ。

途方にくれ、助けを求めるように師匠のほうに視線を移した。すると、師匠の竿先に反応が。ヒラメだ。しかし、気づいていないのか、師匠は悠々と構え、一向に巻き上げるそぶりを見せない。10秒、20秒と、時間だけが過ぎていく。ああ、逃げられちゃうよ。そして30秒以上が経っただろうか。ようやくリールを持つ師匠の手が静かに動き出したのである。

今回の格言「本気と遊びの違いを見極めろ」

(後編につづく)
二三丸
information二三丸千葉県山武郡九十九里町小関2347
TEL:0475-76-9957
http://fumimaru.blue.coocan.jp/

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