流されて、心が動くものを描き続けたら、面白い未来に辿り着いた──OVER ALLs
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    流されて、心が動くものを描き続けたら、面白い未来に辿り着いた──OVER ALLs

    2026.03.16

    年間40作品以上の壁画を手がけ、街や人の心を明るく彩り続けているミューラルアートユニット、「OVER ALLs」。コンセプターの赤澤岳人と、画家の山本勇気からなる彼らは、次々と刺激的なプロジェクトを成功させ、今では日本を代表する大手企業からも依頼が相次ぐ存在となった。一方で、その活動の根底には、新しい環境に身を置きながら、迷い、立ち止まり、それでも前に進んできた時間がある。

    春は、「はじまり」の季節。新しい環境に高揚感を覚える一方で、不安を抱えながら迎える新生活も少なくない。今注目を集める「あの人」を紐解く、新生活の記憶と彼らが好きなモノの話から、自分自身の「はじまり方」を見つけてみてはいかがだろう。

    Photo:Yuto Kuroyanagi/Text:Kazuyuki Nomura

    会社員生活を経て、流れるままに30代で起業

    株式会社OVER ALLs(写真左/代表取締役社長・クリエイティブコンセプター 赤澤岳人さん、写真右/副社長・画家 山本勇気さん)

    ——オーバーオールズとして会社を立ち上げる前、お二人は何をされていたんですか?

    山本:もともと僕は大阪で26歳の頃から建物の外観や室内空間を立体的に描写する、建築パースを描く仕事を10年ぐらいやっていました。クライアントワークとして絵を描いている期間が長かったので、全然今のようにアートをビジネスにすることなんて考えていなかったんです。でも、体調を崩して仕事を休んでいた期間に、下の娘の成長記録でも残そうと好きだったスケッチを再開したら、やっぱり楽しくて。徐々にアートを仕事にしたいと思うようになっていったんです。

    赤澤:僕は大学卒業して、古着屋で働いた後は一念発起してロースクール(法科大学院)に行きました。その後は29歳くらいまで模索していた時期って言ったら聞こえはいいですけど、ただプラプラしていました。それで、29歳の頃に人材派遣会社でアルバイトをはじめて、社内のコンテストで賞をとったりして正社員になり、そこから5年間働きました。

    ——そんな二人が、どういった経緯でオーバーオールズを始められたんですか?

    山本:よく聞かれるんですが、全然そんな劇的な感じじゃないんですよ。友達の友達みたいな感じで知り合って、簡単に言うとウマが合った。最初はコンビみたいな感じで、ショッピングモールで赤澤がMCやって、通行人に声をかけて僕が似顔絵描くみたいな活動をやっていたんですけど、だんだん活動が本格化していくにあたり、一緒にやってほしいと僕のほうから赤澤に頼んだのが始まりですかね。

    赤澤:僕も20代のフラフラしていた頃から起業したいというのはずっと頭のなかにあって、ちょうどその頃、会社員を卒業したいと思っていたタイミングで、色々なことが重なった時期で。山本にそう言われて、よっしゃ、やりましょうと返事したら、「じゃ、社長お願いします」と言われて。「え? 俺がやるの?」みたいな(笑)。

    「愛するために働く」ということ

    ——赤澤さんは人材派遣会社に勤めていた頃、どんなことが印象に残っていますか?

    赤澤:まず、僕は29歳までふらふらして定職についていなかったので、朝ちゃんと起きて出社して仕事をするという規則正しい生活がはじまり、人生が正常化した感覚があって、なんか嬉しかったですね。こんな僕でも朝行くと、皆が「おはよう」って声かけてくれて、社会のなかで居場所ができた。これが人と関わって生きていくことなんだなって、改めて気づいたんです。仕事では、派遣さんのフォローなどをやっていたんですけど、さまざまな事情があって前職を離れた人たちが、自分に合った新しい職場を見つけて働きだすと表情もイキイキとしてくるんです。それが面白くて。

    ——なるほど。確かに働くことって本来そうあるべきかもしれませんね。

    赤澤:そうですね。でも、周りを見ていると必ずしも皆がそうではなかった。会社や自分の環境に対する不平不満ばかりで、下を向いて仕事をしている人も多くて。それでモヤモヤしていた時に、ふと会社に貼られていた自社のポスターを見たら「愛するために働く」というキャッチコピーが書いてあったんです。それでハッとして。仕事をすると社会のなかで自分の居場所ができ、社会と自分の関わりが生まれ、一人で立つことができ、心に余裕が生まれる。そうすると人に愛を与え、愛することができる。「愛するために働く」ってそういうことだったんだと気付いたんです。ただ、こんな素敵なこと書いてあるのに、感動しているのは僕だけ(笑)。なんかそのことが凄く心の中に残っていますね。

    ——最近は組織のなかで一生懸命働くことをネガティブに捉えている人も多いですよね。

    赤澤:社畜だとか、会社の犬だとか、組織で一生懸命頑張っている人を揶揄する言葉っていっぱいありますよね。会社のこと大好きっていうと、なぜか白い目で見られるみたいな。例えばスポーツに打ち込んで全てを捧げている人は皆から称賛されるけど、それが会社ってなった瞬間に受け入れられない。それってやっぱり変だなと僕は思います。規模の大小に関わらず、どんな会社も社会や誰かの役に立っているはず。だから、もっと自分の会社に誇りをもったほうがいいし、絶対そっちのほうが面白いと思います。

    僕らは企業さんから依頼を受けて壁画を制作することも多いのですが、徹底的にコミュニケーションをとって、その会社の魅力的な要素をアートとして表現することを大切にしています。ただ言われたものを描くのではなく、「何を描くか」を一緒になって考えて、その会社の良いところを探していくのが、コンセプターである僕の役割。そこは、立ち上げ当初から僕たちがとても大事にしてきたところですね。

    楽じゃない方に“流される”ことのススメ

    ——これから新生活を迎える人たちのなかには、社会人として新たなスタートを切る人も多いと思います。なにかアドバイスはありますか?

    赤澤:うーん、難しいけど自分の経験上で何かアドバイスがあるとすれば「まずは流されてみろ」ってことですかね。東京に来るなら東京に流されたらいいし、会社に入ったら会社に流されたらいい。3年とか5年くらい流されて、初めて自分の立ち位置が分かるみたいなところはありますから。でも辞めるなら、最初の1か月目。それは直感が働いた時だから。直感は大事にしたほうがいい。けど1か月過ぎたら、ただ流されるままに、自分の置かれた状況のなかで一生懸命やるのがいいと思います。

    もう一つ大事なのが、流される方向ですね。本気で仕事をしながら流されていると、いつか岐路にあたるはずです。そんな時は、楽な方に行くのではなく、敢えてキツそうなほう、難しそうなほうを選ぶのがいいと思う。僕もこれまで、そういう時は“楽じゃないほう”を選んできて、今思い返しても絶対それが正解だったなと思うから。

    ——赤澤さんも流されてここまで来たんですか!?

    そうですね。僕も割と受動的な「やらされ人生」ですね、はい(笑)。会社員を辞めた時も奥さんからケツを叩かれて、半ば強制的に会社を辞めて、オーバーオールズを立ち上げたのも山本に「赤澤さんお願いします」って言われてだから。明確なキャリアなんて全く描いていませんでしたね。でも、一生懸命やっていたら絶対誰か見ていてくれて、期待してくれるし、結局良い方向に進んでいくものだと僕は思っています。

    社会人経験がある人は分かると思うけど、仕事をしていると辛い時もある。でも、その辛い時期ってずっと続くわけじゃなくて、せいぜい3か月くらい。逆に、良い時も3か月くらい。それを繰り返しながら、人は少しずつ成長していくと思うんです。

    オーバーオールズの2人が心躍るモノ

    ——ファッションも対照的なお二人ですが、心が躍る「好きなモノ」を教えてください。

    赤澤(写真左):シルバーアクセは昔から好きですね。スカルのキーチェーンはROCK CANDY(ロックキャンディ)という京都のブランドのもので、全部透かし彫りしてあって、とにかく技術がすごい。ずっと身につけています。あと、結構派手で変わったサングラスも好きなんですが、ハイブランドからノーブランドまで全然気にせず、自分の直感で気に入ったものをつけるのがこだわりかな。

    あと、最近買ってよかったなと思ったのが、デジタルカメラのGRⅢ。ずっとiPhoneで充分だと思っていたんですが、実際に買って使ってみると、やっぱり全然違うなと。よく空気を切り取るとか言われますけど、画角ひとつとってもごまかしが効かない。自分の目で見えているところでどこを切りとるか、本質をすごく考えなきゃいけない。僕の仕事であるコンセプトを掘り出す作業ととても似ていて、相性が良いのだと思います。だから今めちゃくちゃハマっていますね。

    山本(写真右):僕は赤澤と違ってファッションとかモノとかに疎くて。唯一ずっと手離さずに持っているのは、昔から描き溜めたスケッチブックです。僕がオーバーオールズの活動を始める原点でもあるので、捨てずに全部大切に保管してあります。カフェとか電車とか、街中とか、自分が描きたいなと思った瞬間にぱっと取り出して、よく描いていましたね。

    スケッチブックはフランスのCANSON(キャンソン)というメーカーのもので、ペンの滑り具合も丁度よく、しっかりと厚さがあるので色も塗りやすいのでずっと使っています。ペンはLAMY(ラミー)の万年筆を使うことが多いかな。万年筆って水で溶けるので、描いてから溶かして陰影をつけるみたいなこともできて、結構表現の幅が広いんですよ。

    全力で楽しむオトナの姿を見せていきたい

    ——オーバーオールズの「これから」について教えてください。

    赤澤:僕たちはいわゆる氷河期世代と言われているけど、40代を迎えたいま、自分たちが全力で楽しむ姿を見せていきたいですね。大人って楽しいんだぜ、仕事って楽しいんだぜっていうのは世の中に示していきたい。まずアメリカ進出は本気で考えていて、本格的に動きはじめています。あと、最近バンドを結成したんですよ。

    ——バンド、ですか!?

    赤澤:ええ。趣味でちょっとやりましたとかじゃなくて、めちゃくちゃ本気です。各ストアで配信されていて、ミュージックビデオも撮って配信しているので、ぜひこちらも聞いてみてください!

    【INFORMATION】
    ■HP
    http://www.overalls.jp/

    ■Instagram
    @overalls_art

    ■バンド「THE OVER ALLs」
    アーティストページ
    https://www.tunecore.co.jp/artists?id=1070557

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