ファッション
“フランスに 「LIP」(リップ)あり”
歴史と誇りをもつ時計ブランドのスターアイテムをリコメンド
2022.10.27
フランス東部の街、ブザンソンにて、1867年に創業した時計ブランド「LIP」(リップ)。自国のシャルル・ド・ゴール元大統領やマクロン大統領に愛用されたほか、英国のチャーチル元首相、米国のアイゼンハワー元大統領、クリントン元大統領ら海外の権威ある人物にも贈呈されたことのある、フランスを代表する時計ブランドだ。今回は、LIPの日本総輸入代理店を務める、「株式会社ビヨンクール」の渡辺雅己さんから、同ブランドの歴史やリコメンドアイテムについて伺った。
取材:TAKANORI ITO
協力:高橋早紀(株ビヨンクール)/14 SHOW ROOM
150年以上の歴史をもつ、フランスの時計ブランドLIP
――まずは、LIPの歴史から教えてください。
渡辺「“時計大国”というと、スイスのイメージがあると思います。フランスのブザンソンという、スイスからほど近い位置にある時計づくりが盛んな街で、LIPは誕生しました。フランス製の時計ブランドとして150年以上の歴史があり、フランス国内では多くの時計店で取り扱われるほどポピュラーな存在です。
――LIPにはメンズとレディースがありますが、どちらが多くラインナップされているのでしょうか? LIPの時計は男性の愛用者が多いイメージがあります。
渡辺「ラインナップもユーザー層も、男性の方が若干多いという感じです。レディースを大きく打ち出していた時期もありましたが、ここ2年ほどはメンズにも注力しています」
――LIPは歴史のあるブランドですが、日本に入ってきたのはいつ頃ですか?
渡辺「弊社が日本代理店になったのは2年ほど前。それ以前は代理店が2〜3社入っており、正確な年数は定かではありませんが、おそらく20年ほど前だと思います」
当時から変わらない先進的なデザインが魅力
――代表的なアイテムについて、着用シーンや特長を踏まえて解説をお願いします。
渡辺「これは『MACH 2000』(マッハ2000)という、ブランドを代表するモデルです。フランスを代表するインダストリアルデザイナー、『ロジェ・タロン』氏が1975年にデザインしたアイテムです。ロジェ氏は『TGV』という、フランスの高速鉄道をデザインしています」
――70年代とは思えない、近未来感とレトロ感が同居したデザインですね。ほかでは見ない唯一無二さが伝わります。2000年という未来を見据えて名づけられたのでしょうか?
渡辺「70年代当時はそうだったのかもしれません。丸いデザインは高速鉄道をイメージしています。MACH 2000は歴史が長く、幾度かのマイナーチェンジを経ています。このモデルはクオーツ式ですが、かつては機械式を含めてさまざまなバリエーションがありました。それでも、原型となるデザインやラバーベルトなどは、発売当時から変わっていないと思います。MACH 2000はニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久収蔵され、世界のデザイン界に多くの影響を与えています」
カジュアルにもフォーマルにも合う“スクエア”が人気
渡辺「次にご紹介するのは、『CHURCHILL』(チャーチル)というクオーツのモデルです。スクエアでクラシックなデザインが特長で、メンズとレディースのサイズがあります。カジュアルさがあり、普段使いだけでなくフォーマルな服装にもマッチします。スーツの袖から見える直線的なデザインの時計として、ヨーロッパではスクエアの時計が人気です」
――デイリーな装いでつけるのもカッコ良くて、日本ではカジュアルな需要が高そうですね。
渡辺「このCHURCHILLという名前は、第二次世界大戦にてドイツ占領下のパリ解放に尽力したとして、フランス政府からイギリスのチャーチル元首相にLIPの時計が贈られたことに由来しています。歴史を感じられるモデルとして、男女共に愛用されている人気アイテムとなっています」
特殊な環境下で動き続けるモデルも人気
――LIPを代表する2型以外にも、オススメのモデルはありますか?
渡辺「『NAUTIC-SKI』(ノーティック・スキー)というダイバーズタイプがオススメできます。フランスの国産時計としては初の200m防水を実現した、当時としては技術的にも革新的なモデルでした。1968年にフランスのグルノーブルで開催された、冬季オリンピックに合わせて開発されています」
渡辺「サファイヤガラスのドームタイプで、裏側から内部が見えるスケルトンのデザインです。一般的なダイバーズウォッチは外側のベゼルが回りますが、NAUTIC-SKIはインナーが回転する少し変わった仕様になっています。LIPのダイバーズウォッチはクオーツ式が多いなか、当モデルは機械式な点が特長です」
渡辺「もうひとつの機械式モデルとして、『HIMALAYA』(ヒマラヤ)をご紹介します。内部構造が見える物と通常の文字盤の、2つのデザインがあります」
――「ヒマラヤ」のネーミングは、どのような経緯でつけられたのでしょうか?
渡辺「フランスの登山家がヒマラヤ山脈に登頂した際に身に着けていたのですが、過酷な環境でも動き続けたというエピソードがネーミングの由来です。スケルトンのモデルは人気があります」
今後も世界中で愛される定番の時計ブランドであり続ける
渡辺「LIPは手軽な価格帯で種類が豊富にあるため、時計好きの人々に根強い人気があります。それは、長い歴史のなかで、製品づくりを継続してきたからこそだと思います」
――こうしてお話を伺っていると、ブランドがもつ強い魅力を歴史が物語っていると分かります。チャーチル元首相のエピソードだけでなく、1990年代にはアメリカのクリントン元大統領、近年ではフランスのマクロン大統領もLIPの時計をしていますね
渡辺「はい、フランス国内だけでなく、今や世界中でなじみのある時計ブランドとなっています。日本での『セイコー』や『カシオ』のような、誰もが知るブランドです」
LIPでは長い年月をかけて、マイスターたちが技術をつなぎながら、“Made in France”でブランドをつくり上げてきた。歴史と誇りを感じられるLIPの時計を、ぜひ身に着けてほしい。
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話を聞いた人
伊藤孝法
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1973年北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのPRなども手がける。2014年、WWD日本のファッショニスタ100人にも選ばれ、自身のYouTubeチャンネル「ファッションとカルチャーとme」も更新中。