永く愛用している洋服、家具だけで囲まれた
効率的でミニマルな生活。
つくり手の顔が見える安心なグルメを堪能する生活。
「上質な暮らし」と聞いて
イメージするものは人それぞれ。
今号では、そんな生活を
後押ししてくれるヒントをご紹介します。
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以前はシャツをオーダーメイドすることもあったと、まずは自身のファッション歴について語ってくれた仲村さん。
「おしゃれにこだわりがあったというより、体型に合った服を着たかったんです。既製品のサイズの選択肢が限られていた頃で、どうしても既製品では合わない。それでテーラーに出向いていた時期がありました。『首が長いので、シャツの襟を高くしたほうがいい』と店主に指摘されると、『そういうものか』と、とにかくいわれるがままにオーダーしていましたね」と笑う。
そして次第に身なりは“機能性”を重視するようになったという。ただ、いわゆる機能性素材や機能的なデザインを指すのではない。
「仕事前に今日は何を着て行こうかと迷っている余裕がないだけなんです。胸にポケットのある黒いTシャツにジーンズという組み合わせが多いですね。なぜかといえば、機能的だから。Tシャツの胸ポケットに駐車券を入れるのがクセのようになっているんです。色は、黒なら急いで帰るときにファンデーションなんかの汚れが付いても目立たないから。そして極力、手ぶらでいたいので、ハンカチ、財布、スマホ、鍵が入れやすい、ポケットの数が多いジーンズということになるんです」
いつも同じスタイルを選ぶのは、余計なことを考えずに、心をフラットにして現場入りするためなのだ。
俳優とは他人の人生を演じる仕事。したがって、まっさらな精神状態で臨めるよう、常にクセのない身なりを選んでいるわけだ。とはいえ、自分なりの美学も感じさせる。
「ジャージは着ませんね。そこまでリラックスしたくないという理由と、ゆとりのある服を着ていると例えばお腹まわりが嫌な感じになってきても、そのサインに気づかないから。舞台の稽古をジャージで行う同業者は多いのですが、僕はトレッキングパンツ。ジーンズのこともあります。逆に本番ではジャケットを着ることになりそう、とわかれば、とりあえず自前のジャケットを稽古に持って行ったり。できるだけ本番で着る衣装と変わらない服装で稽古したいんです」
こうした美意識は若かりし頃に周りにいた、ダンディな先輩たちによって育まれたという。
「20歳の頃、古いドイツ車を自分で運転して現場入りする柴田恭兵さんに憧れて、僕も同じように自分の車で現場に行くようになりました。たしかに舘ひろしさんがジャージを着ているのも見たことがありません。自分ではもはや自覚がないくらい、大きな影響を先輩の皆さんから受けてきたことは否定できません」
シャツを軸に、コート、パンツ、そしてマフラーまで白で統一した上品な男らしさが薫る秋のコーデ。素材感の違うアイテムを組み合わせることで、のっぺりとしがちな同系色のスタイリングに奥行きを与えている。清楚な装いが、かえって仲村さんのもつ、男らしさを引き立てている。
こうした仲村さんのファッションへの意識は、プライベートでも変わらないという。極力、クセのないシンプルな身だしなみを好む。スクリーンで見せる存在感とは、対照的で興味深い。
「仕事に行くときとプライベートでは、精神状態としては違いますけど、結果的に同じような服を着ています。撮影現場では自分の個性がなるべく前面に出てこないほうが、役を演じる上で良いと思っています。同時にプライベートでも、目立ちたくないと思っている自分がいます。僕が立ち去ったあとに、『あれ? あの人、どんな洋服を着ていたんだろう?』と印象に残らないくらいが、ちょうどいいですね」
そんな仲村さんの美意識を象徴するようなアイテムがある。車だ。90年代に製造された外車をすでに25年以上、乗り続け、現在もそれを自身で運転し、現場入りしている。
「いまの車よりも魅力的な車に出合っていないから、ずっと乗り続けているんだと思います。燃費や衝突安全性……、いろいろな事情でデザインが決まっていくんでしょうけど、30年以上も前に設計された、いま乗っている車のデザインが僕の目には格好良く映ります。とにかく安心して運転できる車がほしいかといわれれば、そうじゃない。例えば、リラックスを極めるならジャージがベストかもしれませんが、ジャージ姿を人に見られたいかと聞かれたら、僕はそうじゃない。多少、窮屈でも、不便でも、これは譲れないという自分なりの基準があります。美学というと格好つけすぎですけどね」
しかも、カスタムすることもなく、ありのままで乗るのが好きだという。その嗜好はほぼ毎晩、飲むというお酒にも通じる。
「お酒は何でも飲みますが、何かで割るのはあまり好きではありません。お酒そのものの味を堪能したいから。でも、そういう人はいくつになっても、上手な酔い方ができないらしいですよ」
1枚でも十分決まる存在感のある黒のレザーシャツ。これを生かすなら、黒のジャケット、質感のある黒のコーデュロイパンツと同系色のセットアップでまとめるくらい、振り切ったほうがいい。サイジングに細心の注意を払って、シルエットが浮き立つようにすれば、男の色気も香り立つ。
車も酒も、ありのままを愛し、そして自然体。俳優人としても器の大きさを感じさせる仲村さんだが、若い頃は、むしろ真逆だったと告白する。
「20代の頃は、衣装合わせに雑誌の切り抜きや、自分で描いた絵を持って行って、今回はこんな衣装を着ますんで!と、プレゼンしていました。でも、しばらくして自分のキャパシティの狭さに気付かされました。自分の好みや経験、想像力なんて幅が狭く、たかが知れている。だったら自分では絶対選ばないような服を着て、喋り方や言葉のチョイスも脚本家や演出家に委ねてみようって思うようになりました。そしたら自分自身でアレンジをしないほうが役に近づける可能性が広がると感じたんです」
それ以来、監督ら制作スタッフから出されたアイディアを受け止めるスタンスに変わったという。
「昔は自分が出演した映画の客の入りが良くない、視聴率が良くないと聞くと、役者人生の大ピンチだと感じていましたが、メジャーリーグで優勝するようなチームでも年に50回は負ける。だから僕もたまに負ける。いや、しょっちゅう負ける。監督の演出通りにやって、スタイリストさんが用意してくれた衣装で演じて、ダメだったとしても死ぬわけじゃない」
いまではそんな境地だという仲村さん。最後に2年ぶりとなる舞台出演について聞いた。世田谷パブリックシアターで10月29日から上演予定の『終わりのない』を演出するのは、劇団イキウメを主宰する劇作家・演出家の前川知大さん。『太陽』(入江悠監督)、『散歩する侵略者』(黒沢清監督)と近年、作品が立て続けに映像化されるなど、注目が集まる気鋭の演出家だ。
「2007年に『狂想のユニオン』という彼の舞台を観劇してから虜になりました。SFや非現実、非日常を描いた作風が多いのですが、実は人生に役立つ何かをくれる作品ばかりです。今回も古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原典にしたSF作と聞いていますが、きっと大きな風呂敷を広げながらも、小さな希望や身近な夢を語ってくれるんじゃないかな。本人にその自覚があるのか、定かではないですけど」と見どころを語ってくれた。
デニムシャツにデニムパンツを合わせた蒼が眩しいコーデ。デニムをチョイスすると、カジュアルな印象に振れがちだが、上質な濃紺タイプなら品の良さを加えることができる。また、デニムシャツもドレスシャツにすることで、フォーマルな場でも十分に通用する。
神話の時代、世界は未知で溢れていた。自然の猛威も、人生の不条理も、すべて神々の言葉。一方、テクノロジーが発展した現代でも、神や魔物は科学の網の目からこぼれ落ちた未知なる存在として、いまもなお、その可能性が信じられている。歴史と神話が地続きに描かれ、人間と神々が同居する、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原典に“古代と未来の往還”“日常と宇宙を繋げる旅”を描く新作SF舞台。
『終わりのない』(原典:ホメロス『オデュッセイア』) 脚本・演出:前川知大 監修:野村萬斎 出演:山田裕貴、安井順平、浜田信也、盛隆二、森下創、大窪人衛/奈緒、清水葉月、村岡希美/仲村トオル 公演日程:2019年10月29日(火)~11月17日(日) 会場:世田谷パブリックシアター 問い合わせ:世田谷パブリックシアターチケットセンターTEL:03-5432-1515(10:00〜19:00)
https://setagaya-pt.jp/performances/owarinonai20191011.html