「あのさ…、今週末、うちにメシでも食べに来ない?」。電車で30分の距離に住んでいる両親に、そう電話をした。70歳になったおやじ。“古希”の祝いの席を計画した。
午後6時、家のチャイムが鳴った。「こんばんはー」と、おふくろの声が聞こえると、「じぃじとばぁばだ〜!」と、息子が玄関にかけていく。
振る舞うのは、「鮭いくら丼」だ。塩をふった生鮭は15分ほど置いて、グリルでこんがりと焼く。ざっくりとほぐしたら、炊きたてのご飯にのせ、昨日仕込んでおいたいくらの醤油漬けを豪快に盛る。のりと三つ葉を散らせば完成だ。
「おふくろが昔、よく作ってくれた、いくらの醤油漬けを作ってみたんだ」
意外に料理ができるのねと驚く、おふくろ。まあまあだなと憎まれ口をいう、おやじ。「じぃじ、コキ、おめでとうです!」と息子が似顔絵を、妻が花束を渡すと「これは、これは…。どうも、ありがとう」と、おやじは破顔になった。
我ながら、鮭いくら丼は絶品だった。ささやかだったけど、親孝行できただろうか……。すっかり空になった丼ぶりを見ると、ちょっと誇らしく、晴れやかな気持ちになれた。