ギフト
感覚のズレにユーモアを見出す現代美術作家・加賀美健が選ぶ、“意外な贈り物”
2025.11.17
クリスマスをはじめ、家族やパートナーへのちょっとしたお礼、忘年会などの集まりに持っていく手土産など──。この季節、ギフト選びに悩む人も多いはず。今回は、独自の個性と感性が光る“あの人たち”に、モノ選びのこだわりや、もらって嬉しかった贈り物、ギフトに込める想いについて聞いた。キーワードは「センス」と「らしさ」。今年のギフト選びのヒントにしてみてほしい。
3人目は、私たちが普段何気なく使っている言葉や日常の場から何かを拾いあげ、そこに独自の価値を見出し続ける、現代美術作家の加賀美健さん。クスッと笑えるユーモアと皮肉の効いた作品は、国内外の美術館やギャラリーだけでなく、人気ファッションブランドのTシャツやステッカー、雑貨となり人々の目に触れる。今回は自宅に隣接するアトリエにお邪魔し、加賀美さんの頭の中を少しだけ覗かせてもらった。
Photo:Yuto Kuroyanagi/Text:Kazuyuki Nomura
買うモノはインスピレーションがすべて。
自分と人の感覚のズレを楽しんでいるところもある
Person.3
現代美術作家/加賀美健さん
——アトリエに1歩足を踏み入れると、何だかよく分からないモノで溢れています。これらはどんな思考で集めているのですか?
何か目的をもって集めているわけではなくて、ただ自分のアンテナに引っかかった、自分にしか価値が分からないものを買っていたらこうなっちゃったって感じです。子供の頃から変なモノが好きだったんですが、なんだかそれがずっと続いているみたいですね(笑)。
いわゆるコレクターではないから執着がなくて、これらをずっと大事に所有しておきたいかと言われると全然そんなことなくて。明日手離さなきゃいけないってなったら全然手離すし、誰かまとめて欲しいっていう人がいたら、全然売っちゃっても構わない。
どんな基準でモノを買っているんですか!? ともよく聞かれるのですが、それはもう直感。インスピレーションだけですね。必要かどうかなんて全く関係なくて、ただただ自分のアンテナに引っかかったモノにお金を出して買って、所有することが目的なんです。で、買ったらもう充分満足して、飾ってニヤニヤと眺めているだけ。
そして、暫くしたらもう忘れちゃう。まぁ、普通に考えて全部要らないものじゃないですか(笑)。でも、そこに自分なりの価値を見出すのが楽しいみたいなところもあります。自分と人の感覚のズレを楽しむみたいな感じですかね。
——その考え方、価値観は昔からですか?
そう、子供頃からずっとですね。僕、すべてにおいて天邪鬼なんですよ。皆が良いと言うものには興味がなくて、逆に誰も見向きもしないようなことを良いなと思うところがあって。
子供の頃って、皆が持っているものを欲しいと思う子が多いと思いますが、僕は全く興味がなかった。ある年代になると、皆タバコを吸い始めるんですが、僕は逆に皆が吸っているから吸わなかった。いわゆる、逆張りですよね。それを突き詰めていったら、こうなっていました。
買い物はメルカリが多い。広大な海で釣りをしている感覚
——「最近買ったもの」という本も出版されているほど沢山モノを買っている加賀美さんですが、普段どこで買っているのですか?
自分でも思いがけない面白いモノがあるのがメルカリ。その時に興味があるものを検索窓に入れてザッピングしていくと、何だコレ!? みたいなヤバい代物があったりして、僕のアンテナがビーンと反応するんです。例えば「マスク 手作り」とか「巨大 クッション」とか、その時興味あるもの、欲しいものを検索していく。
広大な海で釣りをしているような感覚で、釣れる時は入れ喰い状態で釣れるけど、釣れない時はさっぱり釣れない。そんな話を色々なところでしていたらメルカリの人の耳に入ったみたいで「加賀美さんの検索ワードが気になる」ってことで、メルカリのオンライントークショーにも呼んでもらったことがあります。人生何があるか分からない(笑)。
——メルカリで最近買ったモノを教えてください。
このハンドメイドの鳥のかぶり物は最近買いましたね。お値段は2000円。高いのか安いのかさっぱり分からないでしょ!?(笑)。僕はコレを見つけて凄く安いなと思ったんですよね。でも、いざ届いてかぶってみたら小さくて頭に入らなくて、オブジェになっていますが。
ちなみに、その後ろの人間の人形もメルカリで買いました。セーフティーマンと言って、泥棒に入られないように家や車に防犯対策として置いておくモノみたいです。1万円くらいで買いました。
あと、メルカリに限らずだけど見つけたら絶対買っているのが、このひょっとこのお面。7〜8年前に長野県の戸隠っていうところに旅行に行った時にお土産屋さんで買って以来、見つけたら買うようにしています。以前、今日みたいな取材の時に紹介したら、これを作っている人が見てくれたみたいで、僕がやっているSTRANGE STOREというお店にわざわざ訪ねてきてくれました。
メルカリでも「ひょっとこ お面」とかで検索すると出てくるのですが、売っている人が僕が好きなのを知っているのか、#加賀美健とついていました(笑)。なんかそういうのも面白いですよね。
——加賀美さんにとっての“面白さ”って何ですか?
よく聞かれるのですが、ほんと説明が難しくて。僕が買っているものとか見て「加賀美さんこういう感じのモノ好きでしょ」みたいな感じで言われることもありますが、自分のなかでは全然違うことが多くて。じゃ、面白い、面白くないの線引きはどこにあるのかというと、それは分からないし、説明できない。感覚は人それぞれ違うから。インスピレーションでアンテナにひっかかったものが、自分にとって面白いってことだけですね。
人に何かを贈る時、貰う時は全くの別思考
——何かプレゼントをもらう時は、どんなものが嬉しいですか?
これだけよく分からないヘンテコなものを山ほど買っといて、誕生日とかに家族から何欲しい?って聞かれると、それが全然思い浮かばないんですよ。不思議でしょ〜(笑)。だから、最近はいつも靴下とか、パンツとか髭剃りとか、日常で使う消耗品をお願いしています。
これは、奥さんがプレゼントしてくれたOne Nova(ワンノバ)というブランドの下着です。もちろん新品なので安心してください(笑)。奥さんが調べてくれて、10枚くらいプレゼントしてくれました。メリノウールを使用していて、めちゃくちゃ穿き心地がいいんですよ。これを穿きだしてからは、他の下着が穿けなくなったくらい。
これは娘が小学校4年生くらいの時に紙粘土で作ってくれたコケシです。父の日のプレゼントでもらいました。変なオジサンというキャラクターで描いてくれて。こういうのがやっぱり嬉しいですね。自分が買ったものは捨てられるけど、これは絶対に捨てられない。
——加賀美さんが誰かに何か贈る時は、どんなものを選びますか?
何が欲しいって聞いて、欲しいものをあげますね。びっくりする位普通でしょ!?(笑)。これだけ色々変なモノを買っているので、何か変わったものをあげるのを期待されているのかもしれませんが、そこは至って普通なんです。僕が自分で欲しくて買っているのと、何か贈ったり、貰ったりするのは全くの別思考。そこは切り離しています。今回、ギフトの企画ってことですが大丈夫でしょうか!? でも、そんなところもニヤリと面白がってもらえたら(笑)。
