多忙な現代人から注目を集めている「リカバリーウェア」。手間をかけずに着て休むだけで疲労を回復できるアイテムとして、今や高い認知度を誇る。その火付け役となり、休養をとことん追求して商品開発を続けているのが、2025年に創業20周年を迎える神奈川県厚木市の株式会社ベネクスだ。
「着て休むだけで、身体が深く休まる」。そんなシンプルで革新的な体験を科学とクラフトマンシップの両輪で形にしているが、ここに至るまでの経緯と、2030年には14.1兆円にまで拡大する試算があるというリカバリー市場の未来について、ベネクス代表の中村太一さんに聞いた。
「人間が本来持っている自己回復力を最大限に発揮させること」をコンセプトに「リカバリーウェア」を開発した、株式会社ベネクス。創業は2005年。創業者である中村太一さんが、コンサルティング会社で学んだノウハウを生かして、“床ずれ”を解消する介護用マットを発売したことに始まる。
「父親が健康関連の事業を営んでいた影響もあり、大学卒業後に3年間社会に出て勉強したら起業すると決めていました。就職したコンサルティング会社では有料老人ホームの新規立ち上げなどを担当していたことから、父親の会社のスタッフで元々顔見知りだった2人を誘って、25歳のときに3人でベネクスを立ち上げました。
床ずれの原因である血行障害を緩和するには、血流改善を促すのが効果的。そこには自律神経の働きが関わっていることを知り、皮膚に優しい刺激を与えることで副交感神経が優位になるという結論にたどり着いたんです。そこでマットの布の表面に、疲労回復をサポートしてくれる“ナノ素材”などの鉱物を繊維に入れ込めないかと考えたんです」(中村さん)
その後、有識者に相談しながら全てを独自で学び、ナノプラチナなどの鉱物を含む独自素材「DPV576」を練り込んだPHT繊維を開発。そうしてつくった新素材で、2007年5月に床ずれ解消マットを完成させた。
「コンサルティング会社時代に付き合いのあった介護施設で実際に使用してもらうと、みなさん『床ずれが緩和された』と言ってくれ、好評だったんです。ですが、高額で保険も効かない商品だったので、全く売れませんでした。粘ってはみたけど諦めるしかない状態になりつつあり、糸は大量に余ることに……。でも、素晴らしい糸である自信はあったので、それでウェアをつくってみたんです」
2008年2月に開催された展示会の“身体を癒す”コーナーに、介護マットを出展したときのこと。余った糸でつくったウェアを、介護士の疲れた体をいたわる「ケアウェア」として片隅に展示したことで、運命が変わっていく。
「その展示会に大手スポーツジムのバイヤーの方がいらして、このウェアに興味を持ち、サンプルを持って帰られたんです。その後の連絡によると、毎日のトレーニング後の体が、このケアウェアを着て寝たら全然違ったと。そこから、その大手ジムから発注をいただけるようになったんです」
ジムの売店で販売するようになったケアウェアだが、そこで爆発的な売上を記録する。そして、思わぬ方向に話が広がっていった。
「『△△ジムですごく売れているウェアがあるらしい』という評判を聞いた大手百貨店のバイヤーさんからご連絡をいただいたんです。考えてみると、そのジムのお客さんは大手企業の社長や役員の方が多い。そういう方が洋服を買うのは大手百貨店ですよね。そこで噂になっていたようで(笑)。その後、ショップ・イン・ショップという形で展開させていただくようになりました。そこから急速に広まり始めたんです」
当初の名前は「ケアウェア」だったが、この大手ジムバイヤーの言葉をヒントに、名前を変更することになる。
「バイヤーの方が『運動にはリカバリーが大事だ』とおっしゃったんです。『なるほど、リカバリーか』と。そして、その言葉を名称とさせていただきました」
2025年で創業20年を迎えたベネクス。2010年頃に開始したECサイトでの売れ行きも好調で、現在では売上の半数はECサイトからになるのだそう。そして、中村代表が2015年に立ち上げた「一般社団法人 日本リカバリー協会」によると、2025年現在約8兆円とされるリカバリー市場は、2030年には14.1兆円にまで拡大する試算があるのだそう。
「2009年に『リカバリーウェア』を発売した当時、“リカバリー”という言葉はパソコンなどの修理用語くらいでしか聞かない言葉でした。でもここ10年でウェアをつくる同業他社だけでなく、“リカバリー”と名がつくたくさんの商品やサービスが増えました」
創業から20年。積み重ねた研究とエビデンスは、いまや健康づくりの第三の柱“休養”を世に広める大きな力となった。「着て休むだけで、身体が深く休まる」。そんなシンプルで革新的な体験を、科学とクラフトマンシップの両輪で形にしている。
「我々はアパレル会社ではなく『休養を推進する会社』という意識が強いんです。リカバリー市場をもっと拡大し、休養することで元気になってほしい、そしてハッピーな世の中にしていきたい。パジャマやスーツのように、リカバリーウェアがひとつのカテゴリーとしてみなさんに認識されるようになるまで、頑張っていきたいですね」
ベネクスが提案するのは、単なるウェアではない。“休養を纏う”という、新しいライフスタイルそのものだろう。
“休養を纏う”という新しいライフスタイル
ベネクスが生み出す、リカバリーウェアの魅力