匠のモノ語り
香源 名古屋本店 インタビュー

奥深き「香り」のセカイをナビゲート ここが“日本のお香の情報発信源”

Text:YUKO NAKANO(keynote) Photo:KAZUNARI TAMURA 2024.6.17
香源 名古屋本店

およそ90年前、名古屋の大秋町にお香問屋として創業した「香源」。寺院や専門店への卸売りと並行して小売りも始め、1990年代のネットショップ創成期に、いち早くネットショップをオープン。実際の香りを試すことができないインターネットでお香を販売するという、業界の常識を覆した存在である。画期的な展開を進める三代目当主は、お香文化を世界に広げ、未来につなぐという使命感に溢れていた。

香源 名古屋本店

お香文化を広めるため、
ネットも活用して「香り」を伝える

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創業の地の名古屋から全国に商品を出荷。実店舗・ネットショップを併せて数え切れないほどのラインアップが強みのひとつ。

飛鳥時代に仏教と共に日本に伝来したとされているお香。伽羅(きゃら)・沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)といった香木を使った遊びは鎌倉時代から室町時代に発展し、香木を香る「聞香(もんこう)」や香木の香りを当てる「組香(くみこう)」という香り遊びとして嗜まれた。「香道」は長い歴史を誇る日本の伝統文化である。

「一般的にお香は寺院・仏前で焚くものという印象が強くありましたが、今では“香りを楽しむためのお香”というイメージも定着しました」こう話すのは、幼少期から初代と二代目に「香」を仕込まれた、三代目当主の菊谷勝彦社長。

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「東南アジアを中心に世界各国に足を運び、目利きならぬ『鼻利き』した高品質かつ希少な香木を取り扱っていることが当店のこだわりです」

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菊谷社長が現地で選りすぐった香木と、お香の原材料。絶妙なバランスで調合し香りをつくる。

そんな香源は、業界に先駆けてネットショップに進出。ただ、テイスティングが不可能なネット販売において、香りの特長や魅力をどう伝えるかには試行錯誤したという。

「甘い・辛い、あっさり、コクがあるなど味覚で例えたり、現代的や古典的といったイメージで表したり、リラックスタイムに、といった使用シーンのイメージが湧くような表現もしました」

すると「どんな香りかイメージしやすい」とユーザーに支持され、テイスティングがなくともお香の販売が可能になっていったのだそう。

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十人十色の五感に左右され、感じ方が異なる「香り」を想像しやすく文章化。

さらに、お香の購入を後押ししているのがオリジナルの「お香20種セット」だ。

「私たちがお伝えしている香りのイメージが、お客様の想像と違っていてはご迷惑になります。そこで、おすすめのお香をバラエティ豊かに詰め合わせ、お客様にテイスティング感覚でお気に入りの香りを見つけていただけるようにしました」

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和風、洋風などテーマも豊富に揃うアソートセット。1本ずつ取り出しやすいケースも菊谷社長のアイデア。香立ても付いた豪華な仕様だ。

「お香が初めての方やセレクトに迷う方はもちろん、気分やシーンに合わせて使えるとのことで、この商品を長く愛用していただくお客様も多いですね」と、四代目当主となる菊谷進之介専務が教えてくれた。

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左:菊谷勝彦社長、右:菊谷進之介専務

産学連携で、脳科学の領域から
香り研究に取り組む

お香は元来、香りを嗅ぐことで体調や気分を整える「薬」だったとされているが、昨今は香気成分の医学的・科学(化学)的な研究が進み、病院での治療中の緊張を和らげるためにお香が用いられる例もある。

菊谷社長はこの香りの作用のエビデンスを活かした商品開発、ユーザーのニーズに応えるために、脳科学の領域からの香り研究に長年取り組んでいる。その一つが近畿大学との共同研究だ。たとえば、ワインやビール、ウイスキーなどを楽しむときに焚くとお酒の味わいの変化を感じるというユニークなお香を開発、嗅覚の作用を利用した商品だ。

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家飲みやちょっとした手土産に人気の「resonance(レゾノンス)」。

地元・名古屋にある金城学院大学文学部日本語日本文化学科の非常勤講師を20年近く務め、お香の歴史・文化の講義を担当。自身が策定したお香リカレント学院の資格「香師」の育成も推進しているという菊谷社長。

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お香文化を広める一つの取り組みとしてお香リカレント学院を設立、資格を取得し「香師」として活躍されている方もいる。

「『香源』の名前には“日本のお香の情報発信源”という意味を込めています。お香の文化を世界の人々に伝えていきたいですし、このお香という文化を未来の子どもたちに伝承していきたいと考えています。インターネットを通じたお香の販売や研究活動、講義などすべてはお香屋に生まれた私のミッションです」

コロナ禍によって実店舗の臨時休業を余儀なくされた際、「いつものお香がないと安眠できない」「今こそ愛用のお香で癒やされたい」など、営業再開を待ち望む声が多くあがったそう。それほどまでに香源のお香はユーザーの心を捉え、生活の必需品となっている。

「お香は時間や場所を選ばず、気分を落ち着かせたり集中したりなど、気分転換のために使われることが増えました。また『線香の香りを嗅ぐと祖父母の家を思い出す』といったように、香りは思い出とともに記憶に残るものです。心に残る香りに出会っていただけたらうれしいですね」

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Three Focus Storys

  • 好きな香りが見つかる、「お香コンシェルジュ」がナビゲート

    好きな香りが見つかる、「お香コンシェルジュ」がナビゲート

    菊谷社長が「商品展開はあえて5,000種ぐらいに抑えている」というほどお香の種類は豊富に存在する。ユーザーが理想の香りに辿り着くのはなかなか困難だが、香源では知識豊富な「お香コンシェルジュ」が導いてくれるので安心だ。たとえば「晴れの日と雨の日、お香を焚く場所によって香りの感じ方が変わってくる」などというように、お香に関すことを丁寧に説明してくれる。

    また、ナビゲートするだけでなく「書道でする墨の香りを感じたい」といったユーザーの声からの商品開発、オリジナルのお香OEM製造も可能だ。

  • 希少な香木や価値ある香道具の鑑定の依頼が可能

    希少な香木や価値ある香道具の鑑定の依頼が可能

    香木や香道具には、歴史的価値や希少価値の高い品が存在するため、販売だけでなく無料鑑定も行っている。香木は億を下らない品もあるとか。実店舗では香源にある希少な香木や受け継がれてきた香道具を見学できる。

    また、お香以外に、数珠・ブレスレットの販売、紐や房が切れてしまった数珠の修繕、使わなくなった数珠の供養にも対応。ネットショップの利用を機にお店に訪れるユーザーもいるのだそう。

  • 名古屋・東京にある3つの実店舗

    名古屋・東京にある3つの実店舗

    香源は名古屋本店、銀座本店、上野桜木店の3つの実店舗を展開。お香や線香、お香を使った入浴剤など、多様なアイテムを販売。その他にも線香や練香、匂い袋の手作り体験に、香木の焚き比べ体験といったメニューがある。店舗への来店が難しい方でも線香・練香・匂い袋の手作りキットをネットショップで購入することができる。体験者のリピーターは多いとか。

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ここが“日本のお香の情報発信源”

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