匠のモノ語り
VREASON ヴレアゾンインタビュー

“アルチザン=職人”が手でつくる他にはないレザーアイテムを

Text:YUKO NAKANO Photo:KAZUNARI TAMURA 2022.3.15
VREASON ヴレアゾン

2018年、レザーアイテムのファクトリーブランドとして誕生した「VREASON ヴレアゾン」。商品の企画から革の裁断、縫製、さらにECの運営にいたるまで、自社のアトリエで行うレザー業界では稀有な存在で、ハイブランドに負けないハイクオリティなアイテムは、多くのユーザーに支持されている。そこで“Made in Japan”とマニュファクチャーなものづくりにこだわる、ブランド、職人の思いを紹介する。

VREASON ヴレアゾン

いいものだから“これがいい”と選ばれる

下町情緒が残る大阪の商店街に、まるでイタリアの古い街に佇むような建物がある。レンガ造りの外観にアイアンの門。アンティークなランプがやさしく灯り、大きな窓の向こうには黙々と作業に打ち込む職人たち。そこがヴレアゾンのアトリエだ。

ヴレアゾンのアトリエ
外観も内観もアンティークな雰囲気のアトリエ

「元々は地元で愛されてきたケーキ屋さんで、ショーケースなどは上手く活かしながらリノベーションしました」と教えてくれた株式会社ヨシダデザインワークス代表取締役の吉田淳さん。革製品の卸売メーカーとして、イタリアを中心に海外での原材料の買い付け、商品の企画、製造、供給に携わる中、ある思いから財布やバッグなどのレザーアイテムのファクトリーブランド「VREASON ヴレアゾン」を立ち上げ、ECに進出した。

「私が会社を起業した2008年当時、日本のファッション、アパレルの輸入浸透率は95%、日本で製造されるアイテムはわずか5%でした。この割合は年々減少し、現在は2%と、危機的状態です。海外との価格競争はもちろん、職人の高齢化、後継者不在が大きな原因でしょう。そこで、自分たちでものづくりを行い、販売することを決意しました。ECを選んだのは、路面店の減少などリアルな市場の閉塞感も理由ですが、私がデジタル分野が得意なことと、つくり手とお客様が直接繋がり、手頃な価格だから“これでいい”ではなく、魅力があるから“これがいい”という価値を共有したいからです」

ヴレアゾンは “Made with leather, Made in Japan”『革で作る 革らしい革で 時には革らしくない革で 自分たちで作る 大切に作る 日本で作る』をコンセプトに掲げる。

「実は、レザーアイテムは、ハイブランドも、リーズナブルな商品のメーカーも、製造工程や用いる機材にほとんど変わりはありません。原材料をコストではなく、クオリティで選ぶ、ものづくりのための環境と人を整え、きちんと時間をかけて手づくりする。そして、いいものをつくりたい、届けたいという思いがあれば、お客様に価値が伝わり、購入くださいます。ハイブランドの知名度やステイタスには残念ながらかないませんので、届けるユーザーを明確に設定し、商品を企画しています」

ヴレアゾンでは、ファッションに自分なりのスタイルがある、ハイブランドも所有しているが、たとえノーブランドでも、ある程度の価格でも、良いもの、気に入ったものであれば買って使いたいという30代以上の女性をメインペルソナに設定。このペルソナはいい意味でわがままでもあるので、「納得、満足いただくために本当に細部にいたるまでこだわっています」と吉田社長は言う。

たとえば、ヴレアゾンの看板アイテムでもある「L字ファスナー長財布」は、開発当時、レザー業界ではキャッシュレス化によって、今後、財布が売れなくなるのではとの懸念の声が上がっていた。ただ、吉田社長はどんなに時代が変わっても、現金は不可欠であり、カードやレシートを出し入れするためにも財布が不要となることはないと考え、最低限のものがスマートに収まり、出し入れも簡単な形状をデザイン。紙幣の角が折れ曲がらない、小銭を入れても膨れない、仕分けがしやすいなど、細かい仕様にもこだわり抜いた。

ヴレアゾン「L字ファスナー長財布」製作過程
ヴレアゾンの看板アイテム「L字ファスナー長財布」

「ここがMade in Japan、そしてヴレアゾンだからこそ。いろいろなところに気が利いていると感じていただけると思います」

実際、ユーザーからはデザイン性はもちろん、機能性を高く評価され、ヒットを続けている。

どこにも負けない正確で緻密な手仕事の技

Made in Japanにこだわり、細部まで気が利かせるには、かなりの技を要するが、「ヴレアゾンのクオリティの根幹であり、ブランドにとってもっとも大切な職人のレベルは非常に高いです」と自負する吉田社長。彼らへのリスペクトから、ショップでは “アルチザン=職人”と称している。

ヴレアゾンに在籍する“アルチザン=職人”
ヴレアゾンに在籍する20人ほどの“アルチザン=職人”

現在、ヴレアゾンには20代から70代まで全世代の職人が在籍。多くの知識を持つこの道50年の職人は若い職人にとって、憧れのマイスターであり、良きアドバイザーであり、若い職人のやわらかな発想はベテランにとって刺激となり、切磋琢磨と相乗効果を図りながら、一点一点を丁寧に、真摯に手づくりしている。

工程は、革の裁断から始まる。アイテムのデザインや仕様に応じた専用の金型を使い、圧力をかけて型抜きするのだが、これが簡単そうに見えてかなり難しいという。

「天然皮革は、個体によっても部位によっても表情や風合いがまったく異なるので、見て、触って、どの部分がどのパーツに適しているのか考えながら、手作業で型を抜かなければ、商品にはならず、ロスも生じます。型押しなどが施されている革は完成時の模様の出方もイメージしなければなりません。そのため、オートメーション化は不可能で、専門業者に外注するメーカーも多いのですが、ヴレアゾンは自社での裁断を可能としています」

天然皮革の裁断
技術力を要する天然皮革の裁断

裁断後は、裏地の張り合わせ、ファスナーやポケットなどの取り付け、ボタンホールなどの加工などを行い、その都度、仕上がりを厳重にチェック。ようやくミシンで縫製していくのだが、この時も負荷がかかる分は重ね縫いして耐久性を高めたり、糸目が目立たないギリギリの位置を縫ったり、技術と頭を駆使。ひとつのアイテムが完成までに数え切れないのほど工程を経ていることに加え、どの職人も数ミリ単位の繊細な作業を確実に、しかもスピーディに行っていくことにも驚く。

「作品ではなく、商品ですから、時間やコストをいくらかけてもいいわけではなく、職人は正確さと速さが求められます。その中で、どうすればもっと使いやすくなるか、軽くなるかなどを、全員で考えて話し合い、アイテムのクオリティを高めています」

商品として完成したアイテムは、色味やイメージに違いが生じないように撮影し、ショップにアップ。使用例やサイズ感、機能などもよりわかりやすく説明していく。

「ウェブで見た商品と実際に届いた商品が違うのは、数多あるショップからヴレアゾンを選び、購入くださったお客様を裏切ってしまうことになりますから、色彩の加工での誇張は一切行わないがポリシーであり、責任です」と、ショップの編集にも商品、ブランドへの思いを注入している。

それなりの数量のアイテムをアウトソーシングなしに製造するメーカーは、実店舗でもECでもレアであり、クオリティを保つにはコスト面も含めさまざまな苦労も伴う。それでも全工程を自社での手づくりを貫くヴレアゾン。センスあふれるアトリエから刺激を受けながら、自らの技術へのプライドと、いいものをお客様に届けたいという思いを持って生き生きと働く“アルチザン”たち。これからも、使いたい、誰かに自慢したいハイクオリティなレザーアイテムがここから次々と生まれ、Made in Japanを支えていってくれるだろう。

Three Focus Storys

  • イタリアからめずらしいレザーを買い付け

    イタリアで買い付けたレザー

    使用するレザーは吉田社長がイタリアに足を運び、現在はオンラインを活用して、膨大な種類の中からヴレアゾンにマッチするものをセレクト。ジュエリーのような特殊加工を施したレザーや、光沢と花柄が美しいレザーなど、日本にはないめずらしいものが多い。「毎回良いものに出会えるとは限らず、ヒット素材を発見するのはなかなか難しいのですが、一切妥協しません」。ヴレアゾンは優秀な職人により扱える素材の幅が広いため、牛革やラム革、パイソンやヤギ革、シャークといった皮革も仕入れている。

  • つくられるのはアンティークなアトリエ

    ヴレアゾンのアンティークなアトリエ

    大阪の下町にとけこむヴレアソンのアトリエ。アンティークな雰囲気が魅力で、アパレルショップやカフェと間違えてしまうほど。作業場を照らすランプをはじめ、インテリアは吉田社長が国内外からセレクトしてコーディネート。堅牢な型抜きの機械やミシンとも不思議とマッチしている。ショップのトップページではアトリエのスライド画像を公開しており、「素敵な場所でつくられているのが嬉しい」とユーザーにも好評。ブランド、アイテムの信用や価値、職人のモチベーションを高める役割も果たしている。

  • トレンドやライフスタイルを巧みに反映

    ヴレアゾンのデザイナーでもある吉田社長

    アイテムのデザイナーでもある吉田社長。ファッションのトレンドやメインペルソナのライフスタイルを鋭くキャッチしてデザイン画を描き、職人と打ち合わせを重ねてカタチにしていく。レザーへの知識はもちろん、アトリエのデザイン、コーディネートからもわかるよう、アンティークなインテリアや建物にも造詣が深く、イタリア、大阪の街を散策しながらインスピレーションを受けてデザインにすることも。また、ユーザーからのレビューには常に目を通し、アイテムの改良や企画に活かす。