匠のモノ語り
グラシス時計専門店

心に寄り添う「おもてなし」でオンラインショップも急成長

Text:HIROMI YAMANISHI(HISTOREAL)Photo:YUSUKE SERIZAWA 2021.9.15
グラシス時計専門店

1970年創業の「株式会社GRACIS(グラシス)」。腕時計市場が縮小の一途をたどった2000年以降の札幌。同社も一度は腕時計業界から退くも、このままでは札幌に腕時計専門店が消えてしまうという危機感から、あえて過酷なマーケットに挑んだ宮本建次社長。“お客様の心に寄り添ったおもてなし”を追求し、今や札幌を代表する腕時計専門店にまで登りつめ、オンラインショップでも高い評価を得ている。購入者を惹きつけて離さない同社のおもてなしに迫った。

グラシス時計専門店

札幌から腕時計店を消したくない。
過酷な市場に挑み、いまや札幌を代表する専門店に

現在、北海道内に3店舗を展開し、ブライトリング、タグ・ホイヤーなどを扱う正規販売店である「株式会社GRACIS(グラシス)」。実店舗に加え、2年前から総合ショッピングモール・楽天市場へも出店し、わずか1年ほどで、多くの高評価を得た上位1%の店舗に与えられる月間優良ショップを7カ月連続で受賞するなど、対面販売だけでなく、通信販売でも多くの人々から支持されている。

同社の旗艦店である「GRACIS札幌駅前店」がオープンしたのは10年前だが、その歴史は古く、今年創業50周年を迎えた。

「創業時は千歳市が拠点で、おもに腕時計の修理を行なっていました。依頼があると、自転車に乗って腕時計を引き取りに行き、修理をして、また届けるといったことをしていたと、先代から聞いています」(宮本社長)

GRACIS宮本健次社長
「もともとは腕時計の修理店から始まった」と話す宮本社長

昔はそのような“まちの時計店”が各地域に必ずあり、特に、進学・就職・結婚の記念に腕時計を買った思い出の店として、人生の節目に欠かせない存在だった。

しかし札幌では、2000年を境にその様子が徐々に変化する。地元民なら誰もが知る有名店・老舗店が次々と廃業していったのだ。その理由は、バブル景気後の度重なる不況、店主の高齢化と後継者の不在、急速に普及した携帯電話により腕時計を持たない層の増加。そして、昔から大手メーカーの間で囁かれていたといわれる“札幌で腕時計は売れない”というジンクス。何が理由にせよ、確実に言えたことは、この時代、札幌の腕時計市場は縮小の一途をたどっていたということだ。

「1990年代初頭に千歳から札幌へ拠点を移し、このころから当社も腕時計から離れ、宝飾品をメインに取り扱っていました。ですが、改めて周囲を見渡すと、札幌から腕時計の専門店が消えかかっていることに気づいたんです。腕時計が売れない時代、売れないマーケットに再び足を踏み入れるのは正直、覚悟が必要でしたが、あえて挑むべきだと思いました。2002、3年ごろのことです」(宮本社長)

そして、「GRACIS=腕時計」という認知が道民に広まったのは2016年ごろ。GRACIS札幌駅前店のオープンと同時に開始した、地道で徹底した広告宣伝活動によるものだった。テレビコマーシャルでは「GRACIS」の名を連呼する手法を取り、札幌市内の壁面にも大きく広告を掲載。そうして再び腕時計業界に挑んで10年、“札幌で腕時計は売れない”というジンクスを打ち破り、価値観の変化やコロナにも動じない、札幌を代表する腕時計専門店にまで成長した。

オンラインショップでも、
実店舗と変わらない「3つの安心」に
人生の節目ごとにリピートする人も

実店舗の知名度もあいまって、楽天市場でもその存在感を示しはじめている同社。一度、同社で腕時計を購入すると、「次もGRACISで」と考え、実際に結婚や記念日といった人生の節目で再度同社を選ぶ人も少なくない。

その理由の1つは、万全の「アフター対応」だ。

「当社は時計修理から始まった会社でした。その背景もあって、時計は“修理しながら使いつづけるもの”という概念が根強くありました。だからこそ、ご購入いただいて終わりではなく、その後、お客様が腕時計のことでお困りになっても、気軽にご相談いただける関係性を築くことを大切にしています」(宮本社長)

GRACISのルーツは“時計修理
GRACISのルーツは“時計修理”

この一環として行なっているのが、購入者に定期的に送られる「手紙」だ。特に楽天市場で購入した際に初回に送られる手紙には、腕時計の取扱説明書、丁寧に手順が記された延長保証の登録方法、手首サイズの測り方など、さらにいつでもベルト調整を依頼できるよう送り状も1枚同封されている。もちろん、その後も季節ごとに手紙が届けられる。

「オンラインショップでお買い物されたお客様にも真心を伝えるために、楽天市場でも実店舗同様のサービスを心がけています」(宮本社長)

理由の2つめは、「実店舗がある」ということ。

「楽天市場で当社を見かけたら、間違いなく、公式サイトをご覧になって、どんな会社か確認されているはずです。そのとき、札幌で腕時計専門店として10年間経営している実店舗があるというのは、信用していただける確かな説得力になっていると思います」

また、実店舗を構えているからこその、こんなケースもあったそう。楽天市場で購入後、ベルト調整で実店舗を訪れた方がいた。ご本人はいたく恐縮していたとのことだが、来店できる機会があるなら、直接対面でベルト調整してもらいたいという気持ちを、同社社員はよく理解していたので、どこで購入したといったことは気にもせず、いつもと変わらず接した。後日、そのときの応対に感動したという心のこもったお礼のメールが届いたという。

3つめは、「同じ社員が担当しつづける」ということ。

同社の社員離職率は限りなく0に近い。10年前に接客した社員が出迎えてくれることも珍しくなく、まるで古い友人に再会したかのような安堵感を覚える人もいることだろう。
社員が長く働きつづける理由は何か。

「今はコロナで断念せざるを得ない状況ですが、このような事態になるまでは、社員を海外メーカーの工場見学や、スイスで開催される世界最大の宝飾・時計展覧会“バーゼルワールド”にも積極的に送り出していました。この体験をきっかけに変化した仲間の接客を目の当たりにして、次は自分がと思う社員がとても多いです。そういった自己成長できるチャンスがある。それが長く当社で働きつづけてくれる理由の1つだと思っています」(宮本社長)

GRACIS社員の接客
社員が長く働き続けるから、変わらぬ接客ができる

ほかにも、宮本社長は社員に対して常日頃から「おもてなし」の気持ちで接し、自然に笑顔と感謝の気持ちがあふれる素地が育まれている。だから、店内はどこか楽しげで、とても温かい。

「社名であるGRACISは、スペイン語のGraciasからとっています。つまりは“ありがとう”。これが企業モットーです。私と社員との“ありがとう”、社員同士の“ありがとう”、それはお客様への“ありがとうございます”につながり、これが最高のおもてなしであると考えています」(宮本社長)

実店舗はもちろん、オンラインショップにおいても、大切なのは人と人との心のつながりであり、信頼を得るには相手が見えないからこそ、人間味にあふれた対応・接客が欠かせない。一生を通じて使う腕時計に、社員とのやり取りで生まれた「GRACISで買った」「あの社員から買った」という思い出が刻まれ、さらにその人の人生とともに新しい思い出も追加される。そうやって腕時計は、それぞれの特別なものになっていく。

「その最初の一歩をお手伝いすることが私たちの役割であると考えています」(宮本社長)

Three Focus Storys

  • 専門性の高いプロフェッショナルを育成

    グラシス時計専門店

    「お客様へのおもてなし」には社員教育は欠かせないという思いから、社員の学びの場を多く設けている。その一環として、セイコーの雫石工場(岩手県)や、シチズンの飯田殿岡工場(長野県)への訪問をはじめ、ここ10年間で10名の社員を海外メーカーの工場見学や、スイスで開催される世界最大の宝飾・時計展覧会「バーゼルワールド」にも社員を派遣。本場のこだわりや接客を実際に肌で感じてもらうことで、専門性やクオリティの高い応対へとつながっている。

  • 道内唯一のブランドも取り揃えている

    グラシス時計専門店

    顧客からの支持の高さは、メーカーからの信頼にもつながっている。その証拠に、道内で唯一「ブライトリング ベントレーモデル」や「ベル&ロス」の取り扱いを認められているのは同店だけ。さらに、2021年7月には、道内初の「グランドセイコーサロン」もオープン。腕時計に関するあらゆる質問に答えられるスタッフが常駐している、サービスの行き届いた店の証で、サロンランク以上の店でしか手に入らない限定品も取り揃えている。

  • 「正規販売店」として多メーカーから認められている

    グラシス時計専門店

    シチズンが提供するプレミアム3ブランド「エコ・ドライブ ワン」「ザ・シチズン」「カンパノラ」を取り扱う「シチズンプレミアムドアーズ」認定店。ほかにも、グランドセイコー、タグ・ホイヤー、ハミルトン、エドックスなど、国内外問わず、さまざまなメーカーの正規販売店として認められている。そのため、商品のバリエーションが豊富で、幅広い年齢に応じた提案ができる。