匠のモノ語り
株式会社高昇

市場ニーズをキャッチし国内最大級のパーテーション製造業者へ

Text:HIROMI YAMANISHI(HISTOREAL)Photo:YOKO SAKAMOTO 2021.6.15
株式会社高昇

2006年に夫婦ふたりでスタート、看板・サインの設計・製作・施工を手がける企業として、15年で大きく成長した株式会社高昇。もともとECで取り扱っていたアクリルパーテーション事業を、2020年春、緊急拡大。現在、国内最大級のパーテーション製造業者となった高昇の代表取締役・岡本美咲氏にその信念を聞いた。

株式会社高昇

コロナ禍の継続をいち早く予測し、素早く展開

「まさに“戦争状態”でした(笑)」と、昨年の今頃の社内の状況を語る、株式会社高昇・代表取締役の岡本美咲さん。2006年に夫とふたりでデザイン会社としてスタートし、顧客から「看板も作れないか?」という相談を受けたことから、看板・サインのデザインに乗り出した。現在では、開発・設計・製造・検品・販売・配送の一貫業務を5つの事業拠点で展開し、200人の従業員を雇用する企業に発展した。

その高昇が2020年夏、“戦争状態”だったのは、飛沫感染防止パーテーションや消毒ディスペンサーの製造を本格的にスタートさせたから。

「もともとコロナ禍以前から、アクリルパーテーションは販売していたんです。コロナ前までは、飲食店の相席対策のためなどに購入される方がメインでした。それが4月頃からにECサイトで急激に売れ始めた。そこで、この事業を拡大すべき、という判断をしたんです」(岡本さん)

株式会社高昇代表取締役・岡本美咲氏
夫婦二人三脚で2006年に始めた、高昇。社名はその年に生まれた長男の名前にちなんでつけられた。鋭い観察眼で次々に先を見越した決断を下し会社を成長させてきた、岡本代表。 省スペースの検温機も多数開発し、売上も好調だ。

岡本夫妻は飛沫防止製品の需要増加と、コロナ禍の継続を予測し、素早い展開を試みた。

「4月の時点でまず、日本で購入できるアクリル板をすべて仕入れたのですが、それでも全く足りなかった。当時中国の状況はさらにひどかったので、韓国・台湾に仕入れ先を探し、仕入れられるアクリル板は全て購入したんです。

アクリル板を加工する機械はすでに自社工場に持っていたので、それで工場をフル稼働していたのですが、24時間機械をまわして、慣れない梱包作業に追われ、もう限界で(笑)。1枚ずつカットしていたら全然間に合わないので、アクリル板を1回に10枚単位でカットできる機械を投入し、9月から原木工場を新設しました。それでやっと落ち着き始めましたね」(岡本さん)

高昇の原木工場
2020年9月に新設した原木工場では、70人のスタッフが1日約2万枚のパーテーションを製造している。

誰でも買える価格に設定し
市場占有率を確保する

“パーテーション戦争”がひと段落ついた頃、ウイルス除去機能がある空気清浄機や、AI顔認識の検温機、消毒ディスペンサーの開発・製造も本格化。こちらについては、高昇ではそれまで取り扱っていなかった商品だ。

「例えばAI顔認識の検温機は、当時市場価格が30万円以上で単価が高かった。高昇では、“誰でも買える値段”に設定することを目標にしました。安くてもたくさん売れれば利益が出る、という考えでやっています。2021年は昨年よりも製作コストが上がっていますが、売り上げもそこまで下がってはいないので、まずまずと考えています。市場占有率のキープをいつも念頭に置いています」(岡本さん)

消毒ディスペンサーの開発にあたっては、看板・サインの企業ならではの利点もあった。

「最初に手がけたのはアルコールスプレーだけ。ではスタンドはどうするか? となったとき、看板やサインの廃材を使ってみよう、ということになって。AIのサーモカメラを入れて組み立てるまでを自社でやってみることにしたんです」(岡本さん)

消毒ディスペンサー
看板やサインの廃材を元に作られた消毒ディスペンサーのスタンド

現在もアクリルパーテーションの本格的製造・販売のきっかけとなったECサイトを、販売体制の中心に据えて増強を図っている。総ユーザー数は16万人超。運営を通じて市場ニーズを敏感に吸収し、開発製作にスピーディに生かしている。今後、高昇はどう展開していくのか。

「今後は何をやっていけばいいか、常に考えています。季節の商品は定期的にやっていきたいので、今は扇風機・ファンの販売を展開中。高昇はビジネスの動きを敏感に捉えつつ、即行動に移すことをモットーにしています。右も左もわからないところから始めた事業ですが、今もまだまだ勉強中。これからもずっと勉強だと思っています」(岡本さん)

Three Focus Storys

  • 生産ラインの増加を見据え工場を新設

    株式会社高昇

    将来的な生産ラインの増加を見据え、2020年9月、千葉県市川市に新設された原木工場は、建物床面積3,845㎡の大型製造工場。レーザー加工機やNCルーター加工機、裁断機など、最先端の設備を投資。国内、各国から輸入されたさまざまな大きさのアクリル板が並ぶ。

  • 1日3万枚のパーテーションを生産

    株式会社高昇

    最も需要が多かった時期は、1日3万枚を生産。現在は約70人のスタッフが、1日平均約2万枚を生産している。1000種類を超えるプロトタイプの中から、厳選した商品をラインナップ。月間100万枚の販売を達成している。工場内では地震の揺れなどに耐えうるよう、できるだけ壁側に商品を配置し、スタッフは常に災害を意識して行動している。

  • 社会貢献にも力を入れる

    株式会社高昇

    「高昇はたくさんの方々に手伝っていただいて、ここまでこれました。利益が出ているところで、社会貢献をしたいと思っています。困ったときには弊社の製品で手助けをしたいんです」と、岡本さん。江戸川区内の区役所や病院、福祉施設などでアクリルパーテーション、非接触型検温機、アルコールスタンド、空気清浄機の感染対策品一式を寄付。感謝状を授与されたことも。