トルコを中心に、中東、東ヨーロッパ、中央アジアなどで使われる織物「キリム」。その取り扱い数、クオリティの高さで、国内で圧倒的なシェアを誇る「ガラタバザール」。現代ほどインターネットに情報量があふれていなかった2001年、トルコとインテリア雑貨を愛するひとりの女性によってその店はスタートした。
店の扉を開けると目に飛び込んでくる、ラグの山。異国情緒あふれるその空間からのぞく、明るい木目のフロア。
トルコや中東で6世紀頃から人々の生活道具として使われてきた、「キリム」を取り扱うWEBサイトとして2001年にオープンした「ガラタバザール」。「実物を見たい」「触ってみたい」というお客さんの声により、2006年、東京・中野に実店舗をオープンした。
ガラタとは、トルコの首都・イスタンブールの地名で、とんがり帽子のような塔がランドマークとなっている観光地だ。
輸入雑貨を取り扱う会社で働いていたこと、コンピューターの知識があったこと、学生の頃バックパッカーで旅行して以来、トルコが好きになったこと。その3つが合わさったことが「ガラタバザール」を始めるきっかけだと、代表のたくさがわさんは言う。
最初は苦戦したものの、現地に足を運んで仕入れについて教わったり、逆にお客さんから情報を聞いたりして、何とか軌道に乗せた。
お客さんが店に訪れるきっかけのほとんどは、WEBサイトを見たこと。キリムに興味はあるが知識がない、という人が多い。たくさがわさんは、そういう人たちに“キリムをどのように使いたいか”、そのイメージを丁寧に聞くのだそう。
そのイメージから、商品を提案。お客さんは実際に目で見て触って、ときには歩いてみて、寝てみて、自分が求めるキリムを具体化させる。くつろいで商品を選ぶためにも、店内に靴を脱いであがる空間は必要なのだ。
キリムは大小いろいろな大きさがあり、同じ柄のものはふたつとない。「今あるインテリアに合うものを探したい」。そう思って訪れた人でも、1枚1枚を丁寧に見ていくうちに、どれも芸術作品に見えてくる。最終的には、自分のインテリアに合おうが合うまいが、自分が“好きだ”と思ったデザイン、柄のものを購入していくという。
現在、ガラタバザールで取り扱っているキリムは、約2800枚。2009年頃からイスタンブールにも倉庫を持つ。
現地に赴き、1回で400~500枚をセレクトすることも。イスタンブールの町には、キリムがあふれているのか?と思いきや、現代は違うのだそう。
たくさがわさんがガラタバザールを始めた2001年頃、トルコの町には無数のキリムを取り扱う店があった。そこで店員と客がお茶を飲みながら、楽しくおしゃべりしつつキリムを選ぶというのがかつての定番のスタイルだった。今ではトルコに旅行に行っても、キリムに触れずに帰ってくる観光客も多いのだとか。
一般家庭の生活道具として使われてきたキリムは、職人ではなく各家庭で織ったもの。ボロボロになったらまた作り直す、といういわゆる“消耗品”だった。家庭の主婦は、家族に褒めてもらいたかったり、隣人に自慢するために、ちょっとしたアイディアをキリムのデザインや色合いに入れ込んできた。お金をもうけるためのものでなく、各家庭の遊び心が詰まったもの、それがキリムだった。
現地の人たちが持っていたキリムへの愛を、日本の家庭にも伝えたいというたくさがわさん。
「生活スタイルが変わっても“素敵な暮らしがしたい”という気持ちは同じ。そういう人たちの、夢をかなえるひとつとして、キリムを使って欲しい」
キリムの作り手は減っていても、SNSの発展で、世界中で欲しい人が増えている。
生活にこだわりを持つ日本人が、運命のキリムに出会えるよう、2020年もたくさがわさんはトルコに向かう。