愛媛県松山市からフェリーで約1時間。中島という瀬戸内海の島にある「みかんの楽園 希望の島」。日本屈指のみかんの名産県にあって生育の好条件が整う、まさに楽園だ。コンセプトは「思い出の島からこんにちは」。誰にとってもどこか懐かしく、やさしい島の時間と、丹精込めてつくられた中島のブランドみかんを全国に届ける、若き経営者を訪ねた。
「みかんの楽園 希望の島」の母体であるフレッシュファクトリートミナガは、約100年前、中島の港の近くで、呉服店として創業。現在はスーパーマーケットやホームセンターなどを展開している。2007年からみかんのネット販売を開始し、四代目となる富永昌之代表が事業とEC運営を継承してからは、「本当に美味しい中島産のみかんを全国のお客様に味わってほしい」と、中島で栽培されるブランドみかんに特化してネット販売を行うようになった。
「栽培や品質にこだわる島の生産者さんを一軒一軒訪ねて、私たちに賛同くださる方々と信頼関係を築き、より美味しく、希少なみかんを選び抜いています」と富永さん。その中で出合ったのが、愛媛県が14年もの歳月をかけて開発し、2022年に品種登録・商標化した愛媛果試第48号という新しいみかんと、生産者の加美 豊さんだ。
加美さんは愛媛県農林水産研究所果樹研究センター「みかん研究所」の元・所長で、愛媛果試第48号をはじめ、愛媛が誇る数々の新品種を研究・開発してきた柑橘のエキスパート。定年後、故郷の中島に戻り、自身が開発してきたみかんの栽培を始めた。
愛媛果試第48号は、愛媛の代表的な品種・愛媛果試第28号(商標名:紅まどんな)と甘平を掛け合わせたもの。皮がとても薄く、濃厚な甘さの果肉とたっぷりの果汁が特長なのだが、加美さんの栽培する愛媛果試第48号はとくに美味しいことから、中島独自のブランドとするために、「プリマドンナ」という名前を付けて差別化。愛媛の多彩なみかんの味を知り尽くす富永さんも衝撃を受けたとのことで、ECでの取り扱いを即決した。
加美さんは島のベテラン生産者とチームを結成。柑橘研究で培った知見と生産者の経験を元に栽培を行っている。
「プリマドンナは高い糖度はもちろんのこと、ほのかな酸味に落ち着いてから収穫します。これは販売時期の3〜4月を考慮してのこと。気温が上がると人の味覚はスッキリ感を求めるからです。ただ、果実を転がすと酸味が抜けてしまうので、収穫も運搬も慎重に行います」という加美さん。
取材チームも試食させてもらったが、輪切りにした果実はまるでみかんゼリーのように果肉がぎっしり。一口食べた瞬間、甘くて濃い果汁が溢れ出し、糖度が14度以上もあるのに後味は爽やか。もう一房、また一房と手が止まらなくなった。
もちろん、ユーザーにも「今まで食べたことがない味」と好評。販売シーズンと生産数が限られているなか、何度も注文する客が多いという。
加美さんが栽培し、富永さんが取り扱う中島のブランドみかんとしては、「完熟不知火」も絶品。「プリマドンナ」がみかんの女王なら、「完熟不知火」はみかんの王様と加美さんが言うよう、やや大きめの果実は食べ応え満点。出荷のギリギリまで樹上完熟させるため糖度が20度近いのに、すっきりとした旨さを堪能できる。
「プリマドンナ」をはじめとした24品種の中島のみかんに加え、近年は中島産のレモンやライム、アボカドの取り扱い、オリジナルのみかんジュースの製造販売も行い、「ふるさと納税」にも対応。「今後はみかんを使ったスイーツも手がけていきたいです」と富永さんが意気込むのには訳がある。
「お客様にほんわかとした島時間と美味しいみかんを届けたいのはもちろん、中島の産業を活性化させることで、過疎化や高齢化といった島の課題解決の一助になることを目指しています。その一環として、移住者の農業支援や地元の高校生の新卒採用も始めました。創業者から三代にわたって、中島に貢献してきたことも背景にあります。島内に交通手段が無かった1950年代に自社で三輪バスを走行させました。スーパーマーケットへの転身も買い物に困っていた島の人たちのお役に立ちたいとの思いからです」
みかんを通じて、中島の魅力を知ってもらいたいという富永さん。一口食べれば“希望”の言葉の意味を理解できるはず。ぜひとも体験してみて欲しい。
みかんの概念が覆る
小さな島の奇跡「プリマドンナ」