1954年設立の「ボンフカヤ株式会社」。江戸時代に端を発する博多商人の流れを汲んだ福岡でも老舗の靴店だ。いち早くオンラインショップへ参入するなど時代の波に乗りながら、オリジナルシューズの開発を手掛け、顧客の求める靴を常に提供している。実店舗、EC、商品開発で共通するのは、“こだわりの履き心地をお客様に届けること”。そこには同社創業からの姿勢が根底にあった。
会社設立の1954年より、商家としての歴史はさらに古い。関ヶ原の合戦後、豊臣秀吉側の家臣だった一族が山口を経て福岡に渡り、好きだった釣りをなりわいにと1625年に魚釣り道具の行商を始めた。海の深い場所でも、釣り道具が「丈夫に使えるように」との思いから屋号を「深屋」とした。明治に入ると、釣り針のほか女性の洋装のボタンなど、和服が日常着の当時としては、斬新な商品を取り扱った記録が同社に残っている。
「戦後、船木家の6人兄弟の長男で私の伯父(ボンフカヤ創業者の船木久一氏)がヨーロッパ旅行に行ったとき、靴店と既製服店、バッグ店を見て回ったそうです。そのころ日本はまだ和装が主だったのですが、将来これは日本で流行するだろうと思い、兄弟で別々の商売を始めたのがきっかけです」と、代表取締役社長の船木啓助さん。
その頃の商品はインポート中心。日本にあまりなかった質のよい商品を見つけ、(例えば、当時はフェラガモなどを)直接買い付けて販売していた。「そういった、質のよい商品、他の靴店にないものを販売するイズムが今も残っているんです」(船木社長)
時代は変わり、日本が豊かになるにつれて、名の知れたブランドはどこでも手に入るようになった。そこで、コンセプト、デザイン、履き心地など、明確なアピールポイントがあるブランドや商品のセレクトにこだわる路線へゆるやかに移行。さらに他にはない履き心地を求めて、近年はオリジナルブランドのシューズを企画、工場で直接製造して販売するまでになった。
「靴業界では年に数回の展示会があり、靴店が靴を選び店頭に並べるスタイルが一般的。つまり、福岡でも東京でも全国どこでも同じ靴が並ぶのです。しかもいまはネットでも買えます。ただ仕入れるだけでなく、当社にしかない履きやすい商品を作らなければと危機感を抱き、10年くらい前から本格的に自社製造を始めました」(船木社長)
靴は、履きやすさや履き心地がなにより大切と言い切る。「一番こだわるのはインソールですね。クッション性、高反発・低反発など素材をコンセプトに合わせて使い分けます。本社の商品企画部署全員で試し履きをして、もし一人でもクッション性が少ないなどの意見があれば、どう改善するか詰めていきます。また、もう一つこだわるのが木型。日本人の足に合う木型を選び使用しています」(バイヤーの髙鍋佐知子さん)
木型というのは、靴を作る際の土台になる足の形をしたもの。履き心地だけでなくわずかなカーブの違いで美しく見えないこともある。デザイン性と機能性を兼ね備えた靴を作るために木型探しから始めるという。商品サンプルができあがると試し履き、さらに修正、と納得がいくまで繰り返す。こうしてやっと完成した靴だが、これで終わりではない。販売後は店舗スタッフから顧客の声を毎シーズンごとに集約し、顧客の声も加えてさらに改良していく。飽くなき追求だ。
「商品作りの中心はお客様の言葉です。店舗スタッフが接客の際にお客様からお聞きした言葉をそのまま形にします。たとえば、『フラットでさっと履ける』『子供が小さいから公園にいくときに履きやすい』『おしゃれ、かかとを踏める、本革』などのキーワードをつなげて、形にします。改良も同様ですね」(船木社長)
オリジナルの「JOLICOIN LUXe by cava cava」を例に取ると、初期モデルから現在まで約8年かけて改良を重ねながら販売を続けている。顧客の声を反映しながら1つのブランドを育てていくため、リピーターやファンもゆっくりと着実に広がっている。
ECでの靴販売を始めたのは、今から約20年前。ある男性社員が申し出たのをきっかけに、1999年に設立まもない楽天市場に出店した。サイトをリニューアルをしながら楽天市場店の運営は継続しつつ、2020年6月には自社ECサイトもオープンした。楽天市場店と自社ECサイトとの違いは男性靴も販売する点だ。
「私は実店舗にいた経験が長いのですが、ECでの一番の違いは直接接客ができないこと。お客様も実際の商品を見て購入ができないので、購入した商品を受け取られる際に、画面上の靴と実物で、印象のズレがないよう、商品のページ制作は気をつけています」(ECマネージャーの武井咲さん)
ECと店舗では売れ筋商品にも違いがあるという。婦人靴全体で大きな傾向はヒールやパンプス離れ。店舗でも、よりフラットで履きやすい靴を求める方が多いのだが、ネットではパンプスやヒールが意外と売れているとか。また、店舗で一度購入したお客様が同じ型の商品をネットでリピート購入するパターンがあり、コロナ禍で店舗に行けない愛用者の受け皿になっている。
「ECではレインブーツがとても売れ筋です。1万5000円台と若干高めの価格帯ですが、自社ではECのみ展開しているブランドで、ネットで見つけたお客様が購入してくださいます」(髙鍋さん)「逆に店舗の売れ筋の靴をECで販売することにしたのが『Recipe』です。やわらかく足になじむ一枚革で作られており、しかも1万円前後という価格帯で、実店舗ではとてもよく売れています。店舗スタッフからの情報をECにも取り入れることで、EC運営に良い循環をもたらしていますね」(武井さん)
ボンフカヤの2つの柱は、商品力と接客。顧客の気持ちを汲み、フィッティングや靴の知識から商品を提案する接客だ。しかし、コロナ禍の影響もあり、店舗での接客を好まないお客様も増えつつある。「時折、店頭で靴のサイズを店員に告げてバックヤードから持ってきてもらうのに抵抗のあるお客様がいらっしゃいます。そこで、髙鍋さんのアイデアで学校の下駄箱のような棚を作り、各種サイズを入れて手軽に試し履きができるよう順次改装中です。私どもの靴は、まず履き心地を知っていただきたいからです」(船木社長)
さらに今後に向けて、店舗の情報を元にした商品開発の経験を持つ3人のメンバーで新たにプロジェクトチームを作った。より密接に店舗スタッフからの情報を入れ、もっとお客様に喜んでもらう商品作りをすすめる取組みだ。
ボンフカヤが大切にしていることがある。それはお客様にうそをつかないこと。サイズが合っていなければきちんとお伝えし、お客様がデザインを気に入っていてもおすすめをしない。もし購入後に、自宅で試し履きをしてみて足に合わなかった場合は、返品を受け付けている。「靴が合わず足が痛くて食事会が楽しめなかった」「靴箱に二度と履かない靴がある」などの声を聞くと、購入客にも販売側にも残念なことだと考えるからだ。お客様がそれぞれの場面で輝けるように、私どもの靴がお客様の足元を支えることを願っている。
「お客様のために何かしてあげたい。という販売員の接客から積み重ねられた信頼によって、長く商売をさせてもらっているのだと思います。」と、船木社長。ボンフカヤの哲学「こだわりの履き心地」はお客様との対話の中でこれからも進化していく。